9-4 ティーの変化
「――…」
そんな2人を、不思議そうに見つめているのは、マリナだ。
「マリナ、どうかしたの?」
ノエラが小声で尋ねると。
「あ、いえ…セレン様って、前からあんな風に笑う人だったかなって思って…」
そう、ぽつりと呟いたマリナに、ノエラもセレスティンとティーを見やり、ひとつ微笑んだ。
「…ティー様と出逢って、セレン様も少しずつ、変わってきたのかもしれないわね」
それからノエラはマリナの背中を押しつつ、そっとその場を後にするのだった。
ノエラの言う通り、セレスティンは変わった。以前より良く微笑むようになり、仕事にかまけておざなりにしていた食事や睡眠を、きちんととるようになった。
それらは全て、ティーと一緒に過ごすようになってから。
しかし変わったのは、セレスティンの方だけではなく――
ティーが、その“変化”に初めて気付かされたのは、翌日のことだった。
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翌朝。セレスティンとティーは馬車に乗り込み、辺境伯領を離れてとある村に向かっていた。
エヴル伯爵という、クライン家と懇意にしている伯爵家が治める村で、その伯爵にこの度赤子が産まれたと聞き、祝いの品を届けに来たのだ。
エヴル領も、クライン辺境伯領と同様国の外れに位置する小さな村で、自然が美しい長閑な街並みが広がっている。代替わりしたばかりの若きエヴル伯爵は、遠路はるばる足を運んでくれたセレスティンたちに感謝の意を述べながら、妻と生まれたばかりの息子を嬉しそうに紹介するのであった。
エヴル家を後にする際、伯爵はセレスティンたちを屋敷の門の前まで見送ってくれた。
「今日はわざわざありがとう。何のお構いも出来ずにすまなかったね」
「いいえ、ご子息が産まれたばかりで色々と大変でしょう。私たちのことはどうかお気になさらず」
セレスティンが言うと、エヴル伯爵は微笑んで、ありがとう、と繰り返した。
馬車の前まで来ると、一行は立ち止まって。
「息子がもう少し大きくなったら、改めて宴を開くつもりなんだ。その時は是非、君を招待させてくれ。父君と、ティーさんもご一緒にね」
「ありがとうございます」
伯爵の人懐こい笑顔に、ティーもつられて微笑んだ。
と――
 




