第九章 ティーの変化
ティーがクライン家へやって来て2か月余り。
セレスティンの専属秘書としてもひと月近くが経ち、忙しいながらも充実した日々を送っている。
そして今日も、朝からちょっとしたトラブルが。
「…これでよし。ノエラさん、包帯はきつくありませんか?」
「いいえ、大丈夫です。ありがとうございました、ティーお嬢様」
「もう、ノエラさんったら…ここでは『お嬢様』はよしてください」
ティーが困ったようにくすりと微笑む。目の前で椅子に腰かけるノエラの左手には、真っ白な包帯が巻かれている。
「ティー、突然連れ出しちゃってごめんね!ノエラさんが火傷した時、私咄嗟に、ティーが薬草に詳しかったの思い出して…」
「ううん!お役に立てて良かった」
先ほど、ティーがいつものようにセレスティンの部屋で仕事をしていた時。突然マリナがやって来たかと思えば、ティーの手を引いて一目散に厨房まで連れてきた。
するとそこには、左手の甲を赤く腫れあがらせたノエラの姿が。聞けば、仕事中に誤って熱湯をかけてしまったという。
ノエラは傷口を冷水につけて対処しているところだったが、それだけでは不十分だと判断したティーは、薬草庫から炎症を抑える植物をいくつか取り出し、薬を抽出して患部に塗り付けた。
幸い火傷の程度も軽く、すぐに冷やして薬を塗ったお陰か、腫れも痛みもおさまってきた。
ティーたちがほっと一息ついていたところに。
「ティー、医者は呼ばなくて大丈夫なのか?」
そんな声とともに、セレスティンが廊下から顔を出す。ノエラは慌てて立ち上がると。
「まぁ、セレン様にまでご心配をおかけして、申し訳ございません。ティー様に手当てしていただいたので、もう大丈夫ですわ」
「あ、あの、セレン様…お仕事の邪魔をしてしまって、ごめんなさい!」
苦手なセレスティンを前に、マリナは緊張から勢いよく頭を下げるが。
「いや、仕事よりもケガの治療が最優先だ。大事が無くて良かった」
セレスティンは首を横に振って、穏やかに微笑んだ。
その言葉にマリナも顔を上げ、照れたような安心したような笑みを浮かべるのだった。
 




