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1-4 ロイズ伯爵の葛藤

そんな伯爵の苦悩をよそに、アリーシアは。


「そんな田舎の家の息子なんて、どうせごつごつしたむさ苦しい男でしょ!」


「いや、確かあちらの令息は、そんな容姿ではなかったはずだが…」


機嫌が悪くなる一方の娘を前に、ロイズ伯爵がもごもごと口ごもる。その横からは、エレノアが不安げな顔で。


「それに、辺境伯家のご令息には、あまり良くない噂がありますわよね。『冷酷で女嫌いで、これまで何人もの令嬢が婚約者候補としてやって来たものの、尽く逃げ出してしまった』、とか」


「やだ、何それ!そんな最低男が結婚相手なんて絶対嫌!…そうだ、ねぇお父様、私の身代わりにティーを送ってやればいいんじゃない?ねぇ、そうしましょう!」


アリーシアが蒼白になって悲鳴を上げるのを見て、伯爵は慌てて首を横に振った。


「落ち着きなさい、アリー。そんなものは単なる噂だ。それにティーは薄汚い使用人で、お前の身代わりなど務められるわけがないだろう?あちらが求めているのは…」


ここに来て、伯爵ははたと話を止め。


「使用人…?ん、いや、待てよ…」


伯爵は何かに気が付いたようで、再び手紙をまじまじと読み返す。


「そうか、これなら…穏便に断れるだけでなく、辺境伯家に恩を売れるかも知れんぞ」


そう言って、ニヤリと口元を吊り上げた伯爵に、アリーとエレノアは揃って目をぱちくりさせた。


「決まりだ。アリーの言う通り、辺境伯家にはティーを行かせよう」


言うなり伯爵はソファーから立ち上がり、悠々と居間から出て行く。


その背中を見送ってから、母娘は互いに顔を見合わせるのだった。



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「――と、いう訳で今、クライン辺境伯家では人手が足らず、大変お困りのようだ。そこでお前はこれから辺境伯家へ出向き、使用人として奉公してきなさい」


「…かしこまりました」


ロイズ伯爵は書斎の椅子にゆったりともたれかかりながら、従順に頭を下げるティーを前に、満足げに笑みを深めた。


「あちらの家で産休に入った侍女は、気立ても良く皆から頼りにされていたそうだ。お前など遠く及ばないだろうが、くれぐれも辺境伯家に失礼のないようにな」


ロイズ伯爵が言う。そう、確かにクライン辺境伯からの手紙には、こんな言葉があったのだ。『これまで良く息子の世話をしてくれた侍女が産休に入り、息子も随分と苦労しているようだ。父親としては、これを機に息子とクライン家を生涯支えてくれる、良き伴侶を見つけてやりたいと思っている』、と。


それに目を付けたロイズ伯爵は使用人のティーを呼び出し、産休に入った侍女に代わり、辺境伯の息子の世話をするよう命じた。


アリーシアを辺境伯家にやるわけにはいかないが、代わりに使用人を一人差し出しておけば、あちらも文句は言えないだろう。


「明日の朝一番で向かいなさい。特別に馬車を用意してやろう。…それと、この手紙を辺境伯に届けるように」


「…かしこまりました」


ロイズ伯爵から手紙を受け取り、ティーはもう一度頭を下げてから、書斎を後にした。



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