8-3 クライン家の家族
「…あら。今まで気づかなかったけど、ティーって髪が綺麗なのね」
後ろから聞こえたアンヌの言葉に、ティーは驚いて振り返った。
するとさらにその向こうから、マリナも声を上げる。
「それ、私も思いました!まとめると見えなくなっちゃうから、今日みたいにおろしてた方が絶対いい!」
「そ、そうですか?今まで、『地味な灰色だ』としか言われたことが無かったんですけど…」
精霊色がないことで、ロイズ家で散々貶されてきた灰色の髪。だが、マリナはティーの言葉に逆に驚いたようで。
「ええ!?誰がそんなこと言ったの!?見る目ない人だね~!」
「ほら、マリナ、その辺にして。ティーももう、セレン様と一緒に行かなきゃならないんだから」
アンヌに言われ、マリナは気まずそうに口を噤み、ティーもあっと口を開けた後、急いで廊下に駆けて行った。
部屋を出てすぐの所に、セレスティンが壁に背を預けてティーを待っている。
「遅くなって申し訳ありません、セレン様」
「いや。じゃあ早速、仕事にかかるか」
書斎へと歩きながら、セレスティンは。
「…ティー。6年前の件、本当にロイズ伯爵には言わなくていいのか?」
隣で、ティーも顔を上げる。
「俺が、君の無実を伯爵に証言する。その上で君がロイズ家の籍に戻れるよう、伯爵に進言することもできるぞ」
セレスティンは言うが、ティーは静かに、首を横に振った。
「…いいえ。父は元から、私のことを良く思っていなかったんです。セレン様から言っていただいたところで、今更除籍を取り消すとは思えませんので」
「何故そんな…君だって、ロイズ伯爵の実の娘に変わりはないだろう」
複雑な表情で腕組みするセレスティンだったが、その答えは明白だった。
「私には、精霊色がありませんから。父はいつも、私を人前に出すことすら嫌がっていました」
「…理解できないな。精霊色なんて個性の一つに過ぎない。貴族としても人としても、大切なものは他にいくらだってある」
まるで自分のことのように、怒ってくれる。そんなセレスティンに、ティーは思わず、くすりと微笑んで。
「ありがとうございます、セレン様」
そうして、2人が陽光さす窓辺を通りかかった時。
「――?」
ふと、セレスティンが足を止めた。
今、陽の光を受けたティーの髪が一瞬、虹色に輝いて見えたような――
「セレン様、どうかなさいましたか?」
ティーも、不思議そうな顔で足を止める。
こちらを振り返ったティーの髪はしかし、いつもと変わらぬ灰色だった。
「ああ、いや…何でもない。行こうか」
そう言って、セレスティンは再びティーと並んで歩き始めた。




