第八章 クライン家の家族
夕食会から数日後、キースは家族の住む王都に戻ることになり、しばらくは療養に専念するそうだ。
クライン家に別れの挨拶に来た際には、ティーとセレスティンに懇ろに礼を言ってから、晴れやかな笑顔で旅立って行った。病気などすぐに治して、また必ずこの地に戻って来るよ、と。
そしてクライン家でも、ちょっとした変化が。
いつもの朝のミーティングに、何故か今日は、セルジオとセレスティンの姿があった。全員が集まったのを見計らい、ルーが一歩前に出ると。
「皆さん。お知らせしたとおり、今日から使用人の配置を一部変更いたします。まずはティー、前へ」
呼ばれて、ルーの隣に歩み出たティーは、これまでのメイド服姿ではなく、ボルドー・レッドのデイドレスを身に纏っている。
三角巾の下にまとめていた長髪は、今はハーフアップにして背中に流していた。
「今日から、ティーはセレン様専属の秘書として、本格的に領地管理に携わります」
キース家での一件があった晩、家に帰るなりセレスティンは、真っ先にセルジオとルーに6年前の真実を報告した。そして、ティーのお陰でキースの咳の原因が解明されたことも。
無事に疑いが晴れたティーだったが、それだけでは終わらなかった。その確かな知識と洞察力を見込んだセルジオは、ティーをクライン家の秘書として、新たに雇用契約を結ぶことを提案したのだ。
勿論、ティーもセレスティンも異論はなかった。
「えー、そして今日は、もう一人――」
ルーが合図を送ると、さらに一つの人影が進み出る。
「今日からこちらのノエラが、侍女としてクライン家に加わります」
ティーの隣に並んだノエラは、紹介を受け一礼する。
キースが本家に移ることになり、そして再びこのクライン辺境伯領へと戻って来るのを待つ間、ノエラはクライン家の侍女として働くことになったのだ。
ノエラがこの街に残ることで、主が不在となったキース家の別荘を、仕事の合間に手入れすることが出来る。
ここでセルジオが、ルーたちと並んで前に出ると。
「諸君のこれまでの働き、いつも心から感謝している。今日からは新しい仲間も増えて、嬉しい限りだね。…と、嬉しいと言えば、もう一ついい報告が届いているよ」
言いながら、セルジオは胸ポケットから一通の手紙を取り出し。
「産休中のエマからだ。無事に、元気な女の子が生まれたそうだよ」
その言葉に、使用人たちから喜びの笑みが溢れる。セルジオも満足げに頷き。
「さあ諸君。どうかこれからも一丸となって、私とセレンと共に、このクライン家を支えてほしい。よろしく頼むよ」
使用人たちの元気な返事が、広い部屋に響いた。




