7-8 6年前の真実
その言葉に、不意に身を乗り出したのは、セレスティンだった。
「ノエラさん。ひょっとして貴女は、6年前にロイズ家で起こった事件の真相を、ご存じなのですか?」
ティーが驚いて目を見開くのが横目に見えたが、構わず真っ直ぐにノエラを見つめる。
「事件の概要は、家の者から聞いて知っています。だが、俺にはとても信じられない…ティーが、義理の妹を階段から突き落としたなんて」
「それは冤罪です!お嬢様は、エレノア様とアリー様に、嵌められたのですわ」
セレスティンの言葉が終わらぬうちに、今度はノエラが身を乗り出して語り始めた。
「あの日、ロイズ家で宴の準備をしていた私は、アリー様の悲鳴を聞いて誰よりも先に駆け付けました。階段から落ちたアリー様は、『お姉さまに突き落とされた』と訴えましたが…誰も、ティー様がアリー様を突き落とすところを、見てはいないのです」
そう、目撃者とされていた貴族たちも、実際には決定的瞬間を見たわけではなく、アリーシアの言葉を鵜呑みにしていただけだったのだ。
「伯爵はアリー様の言葉を信じて、侍従にティー様を捕らえさせました…でも、その時、私ははっきりと見たのです。侍従たちに連行されるティー様を見上げて、エレノア様とアリー様が、勝ち誇ったように微笑んでいるのを」
あの時の母娘の黒い笑みを思い出す度、ノエラは今でも背筋が震える。
ノエラだけではない。ロイズ家に長く仕え、ティーを良く知る使用人たちは皆、ティーは無実だと分かっていた。ティーの存在を疎ましく思っていたのはむしろ、エレノアとアリーシアの方だということも。
ノエラ達は必死に伯爵に訴えたが、伯爵は耳を貸すどころか、彼らを即日解雇し、家から追い出してしまった。
「ロイズ家を出されてから、私は侍女としていくつかの家でお世話になりながら、最後にはこちらのキース家で雇い入れていただいたのですわ。…ですが、この6年間、お嬢様のことを忘れた日は1日としてございませんでした」
「ノエラさん…」
あの事件現場で、ティーの無実を信じてくれる人など誰もいないと思っていた。でもティーの知らぬ間に、ノエラ達はティーを救おうと尽力してくれていたのだ。
全てを聞き終えてから、セレスティンは深い溜息を一つ吐いて。
「…ありがとう、ノエラさん。お陰で、全て合点がいきました」
その声に、ティーは傍らのセレスティンを見上げる。
「家の者には、私からきちんと説明しておきます。ティーは、責めを負うべきことは何もしていないと」
「…セレン様」
ティーが呟き、ノエラは改めて、セレスティンに向かい合う。
「セレン様。私の勝手なお願いで恐縮ですが…どうかこれからも、レティーシアお嬢様のことを、お守りいただけないでしょうか」
真っ直ぐに見つめてくるノエラの瞳に、セレスティンはしっかりと頷いて見せた。
「勿論です。ティーは、我がクライン家の一員ですから」




