7-5 6年前の真実
「私が毎日つけている日記だ。これを見れば、咳が出たかどうかも書いてある」
キースは、セレスティンとティーに目配せしてから、日記帳を開いた。
「ほら、昨日は『咳は出なかった』と書いてあるだろう?」
「確かに…ここ最近は、咳が出る日と出ない日が、まちまちですね」
日記帳のページをめくりながら、セレスティンが呟く。
そのページを同じく目で追いながら、ティーは。
「…あの。咳が出る日は、お庭に出ていることが多いんですか?」
その言葉に、キースもセレスティンも顔を上げた。
「ほら、この日も…それに、この日も。『咳が出た』と書いてある日には、お庭で見た空の様子があわせて書かれています。それに今日も…さっき、空を見てらっしゃいましたよね」
「…そうだ。確かに、発作が起こるのはいつも、庭にいる時だ…!」
ハッと目を見開いて、興奮気味にキースが声を上げる。
しかし、キースはすぐに、悲しそうな眼をして項垂れてしまった。
「何という事だ…外に出ることで発作が起こるのなら、私はもう、この美しい自然を肌で感じることが出来ないではないか」
「キースさん、まだそれが原因と決まったわけではありませんよ。日記を遡ると、外に出ているのに発作が起きていない日もあるじゃないですか」
キースを宥めるように、セレスティンが言う。そう、ページをめくっていくと確かに、庭に出た記述があっても咳が出ていない日が、数多く存在したのだ。
「こうして見ていると…発作が起きるのは、春と秋に集中しているようだな」
セレスティンが、何となしに呟いたその言葉に、今度はティーが、ハッとして顔を上げた。
「もしかして…!キース様、新聞はありますか!?あれは…そう、金曜日!先週の金曜日の新聞です!」
「お?おぉ…、読み終えた新聞なら、台所の隅に溜めてあるが」
キースが応えるなり、ティーはぱっと駆け出して、台所から金曜日の新聞を見つけ出す。
頬を紅潮させて戻ってきたティーに、セレスティンは。
「ティー、新聞が一体どうしたんだ?」
ティーは2人の前で、テーブルに新聞を広げると。
「この記事を見てください。王都の研究所で、感染症の新薬が開発された、という内容です」
言われて、セレスティンとキースも新聞記事を覗き込む。ティーが指さしていたのは、新聞の片隅に書かれた小さな記事だった。
「『キノコの胞子が媒介する感染症』…?」
「『春と秋の晴天時に発作が起こりやすい』…なんと、これはまさしく私のことだ!」




