7-3 6年前の真実
「…ティー?どうかしたか?」
セレスティンの不思議そうな顔を見て、ティーはハッとして首を振る。
「い、いえ、何でもありません」
感情を誤魔化すように、小窓の外に目をやると。
「そ、そういえば…馬車が、クライン家へとは別の方向に走っている気がしますが」
「ああ、すまない。予定表には書いていないが、もう一か所寄りたい場所があってな」
「もう一か所、ですか?」
首を傾げるティーに、セレスティンは苦笑を零して。
「納税が滞っているわけではないんだが…少し、心配事がある家でね。」
やがて馬車は、辺境伯領の外れの森の中に佇む、大きな家の前で足を止めた。
「ここは、キース家という資産家の別荘でな。本家は王都にあるんだが、数年前、引退した先代の当主がこの家を気に入って、移り住んできたんだ」
馬車から降りつつ、セレスティンがティーにそう説明してくれる。
「だが、最近キース氏は体調を崩しがちでな。王都にいる家族が心配して、戻ってくるよう説得してるんだが、キース氏も中々頑固者でね。『この家を離れるつもりは無い』の一点張りらしい。それで、時折様子を見に行ってくれないかと、家族からうちに相談があったんだ」
キース氏は高齢な上、この別荘には侍女が一人しかいないため、家族が心配するのも無理はない。それでセレスティンも、見回りのついでに顔を出すくらいならと、引き受けることにしたのだった。
玄関前までやって来たセレスティンは、しかし呼び鈴を鳴らすことはせず、そのまま横の庭へと続く小道を進んで行く。
「今晩は、キースさん。今日も空を見ていたんですか」
セレスティンが声を掛けた先に、庭先に置いたロッキングチェアにもたれ掛かり、空を見上げる老人の姿があった。
「やあ、セレスティン君か。今日も、実に見事な夕陽だったよ」
老人は振り返ると、深い皺が刻まれた顔に笑みを浮かべる。そのすぐ傍らまで歩を進めて、セレスティンはティーをキースに紹介した。
「キースさん、こちらは新しくうちに入った侍女のティーです。今は、私の仕事の補佐をしています」
キースに向けて、ティーは「お初にお目にかかります」と、深く頭を下げる。
「やや、これは礼儀正しいお嬢さんだ。どれ…」
そう言ってキースは、自分も挨拶をしようと立ち上がりかけるが――
急に、キースは激しく咳き込み始め、ティーは驚きながらも、慌ててその背中を擦り始めた。
「また発作が…!キースさん、掴まってください。家の中に入りましょう」
セレスティンはキースの身体を抱え起こし、ティーと2人で支えながら、バルコニーから家の中に運び込んだ。




