6-7 ルーの杞憂
「さっき、『目撃者』と言ったな?」
「ええ…事件当日はちょうど、伯爵とエレノア夫人の結婚式だったそうで。招かれた貴族たちが大勢、現場を目撃していたのです」
「結婚式…」
違和感に、セレスティンが小さく首を傾げる。そんな大勢の見ている前で、わざわざ事件を起こすだろうか?
まるで、敢えて多くの証人を作ろうとしたかのような――
と、その時。
ノックの音が響き、扉を開けてアンヌが顔を出した。
「失礼いたします。セレン様、そろそろ出立なさいませんと」
「ああ、すまない。すぐに行く」
セレスティンがそう返事をすると、アンヌはにっこりと頷いてから扉を閉めた。
「では、俺はこれから領地を回ってきますので。失礼します」
そう言って、ドアノブに手を掛けるセレスティンに、ルーが慌てて。
「お待ちください。確か、今日の見回りにはティーも連れていくと…」
セレスティンは、ゆっくりと振り返り。
「ああ、連れていく。…ティーから事情を聞くのは、仕事が終わってからでもいいだろう」
言うなり、セレスティンはさっさと部屋を出て行ってしまった。
ルーは肩を竦めると。
「やれやれ…何か、悪いことが起きなければ良いのですが」
それを聞いて、傍らのセルジオは朗らかに微笑んで見せる。
「いや、心配いらないだろう。ティーが間者でないことははっきりしたわけだしね。…それに、セレンが疑問を抱くのも頷ける」
結婚式の最中に起きたという事件の不自然さ。そして何より、あんなにも無欲で献身的なティーが、身勝手な理由で人を傷つけるとは思えなかった。
「まあ、この件はセレンに任せてみよう。あの子ももう大人だ。クライン家の跡取りとして、人を見る目を養っておいてもらわないとね」
「…左様でございますか。大旦那様がそう仰るなら、私もこれ以上は申しません」
のほほんと椅子にもたれるセルジオと、ぴしりと一礼するルー。
窓の外では館の玄関から、セレスティンとティーを乗せた馬車が、門の外へと走り始めた。




