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6-3 ルーの杞憂

「…ロイズ家に、手紙でも書くのか?」


心なしか、セレスティンの瞳に不安げな影が差す。


セレスティンの胸の内など全く気付いていない様子のティーは、ぱちくりと瞬きしてみせてから、苦笑がちに頷いた。


「ええ…昨日、こちらで初めてのお給金をいただいたので、ロイズ家に仕送りを」


「仕送り…?」


今度はセレスティンが、きょとんとして瞬きする。するとティーは、小さく溜息を吐いてから。


「お恥ずかしい話なのですが…ロイズ家は今、経済的に苦しくて。旦那様から、こちらでいただいたお給金は全てロイズ家に納めるよう、命じられているんです」


「給金を全て?いや、それじゃ君は、必要なものを何も買えなくなるだろう」


セレスティンが切れ長の目を丸くするのを見て、ティーは慌てて首を横に振る。


「いいえ!クライン家に来てから、新しい仕事着も用意していただいて、毎日美味しいお食事もいただけて…これ以上、必要なものなんてありません」


言いながらティーが、エプロンのポケットから給金袋を取り出すのを見て、セレスティンは。


「…ちょっと、見せてみろ」


そう言って手を伸ばすと、ティーは首を傾げながら、その手に給金袋を渡した。


セレスティンは袋を開けると、中の紙幣を数え始める。


「…ロイズ伯爵からの手紙では、君への給金は既定の半額で良い、と書かれていたな?」


「ええ、そう聞いております…」


不思議そうな顔のティーの前で、セレスティンは手にした紙幣を二つの束に分けながら、立ち上がった。


「ここには、侍女としての満額の給与と、税務管理に携わった特別手当てが含まれている。だが、ロイズ伯爵は『半額で良い』と言っているんだ。それなら、言葉通りの額を送ってやればいいさ」


ティーの手から封筒を抜き取って、半額分の紙幣を入れる。そして残りの金は、給金袋の中に戻してティーに持たせた。


「君が家のためにこの金を送りたいというのなら、俺は止めないよ。だがこれは君の働きへの対価であり、本来君が受け取るべき金だ。生活必需品でなくとも、君だって欲しいものの一つや二つ、あるだろう?」


優しい笑顔でそう問いかけるセレスティンを見上げながら、ティーは。


「欲しいもの、ですか…」


そう呟くなり、俯いてうんうんと考え込むティー。


あんまり深刻な顔をしているので、セレスティンは思わず吹き出してしまった。


「まぁいいさ。そのうち、欲しいものが見つかった時のために、大事に取っておくといい」


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