4-2 セレスティンの憂鬱
ハニーブラウンの長髪を、耳の下で2つのお団子にまとめ、くりくりと良く動く黄橙色の瞳が印象的な少女だ。
マリナの楽し気なおしゃべりはさらに続き。
「ていうか、ティーってめっちゃ仕事早いよね。私なんて最初の頃なんか、先輩の指示が早すぎて全然身体が追い付かなかったのに」
「そ、そうかな?前の家でも、同じようなことやってたから…」
「ああそっか、ティーはロイズ伯爵家ってとこから助っ人で来てくれてるんだもんね!こんな優秀な子を派遣してくれるなんて、ロイズ様って良い人!」
そんなことを話している間に、2人は階段の前までやって来る。
「大旦那様のお部屋は3階、セレン様は2階だよ。エマさんがいなくなってからは、毎朝私1人で運ばなきゃならなくて…ティーが来てくれてほんとに助かった!」
マリナはティーに、セレスティンの部屋の場所を教えてくれた後、3階のセルジオの部屋に足を向けつつ。
「セレン様って、不愛想で最初はちょっと怖いけど、大声で怒ったりはしないから大丈夫。じゃ、頑張ってね!」
分かれる直前、マリナはティーの耳元でそう囁くと、にっこり笑って手を振ってみせたのだった。
1人、扉の前に立ったティーは、深呼吸で息を整え。
その扉をゆっくり3回、ノックした。
「若旦那様。朝の紅茶をお持ちしました」
廊下には少しの間、沈黙が流れたが。
「…どうぞ。」
扉の向こうから、セレスティンの声が響く。ティーはドアノブに手を掛け、重厚な木の扉を押し開けた。
「失礼いたします」
静かだがはっきりとした声音と共に、紅茶の盆を手にした侍女が部屋に入って来る。
昨夜やって来たばかりの、ティーという名の少女。仕事机に向かうセレスティンが横目で見やると、ダイニングテーブルの上、滑らかな手つきで紅茶をカップに注いでいた。
(…ルーの言う通り、侍女としての腕前は中々らしいな)
ティーと真っ先に対面したのはルーだったが、執事として経験豊富な彼の眼は、その能力の高さを一瞬で見抜いたようだ。ルーはティーが持ってきたという手紙を届けるとともに、彼女を侍女として迎え入れるよう、父にそっと耳打ちしていた。
ルーのその言葉には、セレスティンもすぐに納得することになる。ティーが書斎に挨拶に来た時、正直、その所作には驚かされた。
洗練された動作に言葉遣い。物怖じせず、しかし決して角が立たない態度。この若さで、ここまでの振る舞いを身に着けているとは大したものだ。
ロイズ伯爵は娘の教育に熱心だと聞いたことがあるが、使用人にも余程しっかりした教育を施している、ということか。
 




