第四章 セレスティンの憂鬱
翌朝早く、ティーはアンヌが用意してくれた新品のメイド服に袖を通し、使用人たちの待機室に向かった。
仕事前には毎朝、クライン家の使用人たちが一堂に会するミーティングが行われ、執事のルーがティーを皆に紹介してくれた。
朝のミーティングを終えた後、アンヌは侍女たちを集めて。
「みんな、さっきルーから紹介があった通り、今日からティーが一緒に働いてくれるわ。当面はエマの仕事を引き継いで、セレン様の補佐をしてもらう予定よ。最初は分からないことも多いだろうから、みんなもティーをサポートしてね」
それからアンヌはティーに侍女たちを紹介し、その後早速朝の支度が始まった。
「大旦那様もセレン様も、朝は紅茶を召し上がります。大旦那様はお砂糖とミルク、セレン様はストレートです」
「承知しました」
慌ただしい朝の給仕室で、目まぐるしく動く侍女たち。先輩の侍女たちの指示を受け、ティーもてきぱきと紅茶の準備を進める。
「朝7時に、紅茶をそれぞれのお部屋にお運びします。飲み終わるとお2人とも朝食に出られるので、その間にカップを片付けます。…では、ティーさん、一緒にお部屋まで運んでもらえますか?」
「分かりました」
ティーは若い侍女と共に、紅茶を載せた盆を手にセルジオとセレスティンの部屋に向かった。
「…ねぇ、ティーさんって今、おいくつですか?」
廊下を歩く途中、隣を歩く侍女がそっと話しかけてくる。ティーも顔を上げると。
「マリナさん、ですよね。私は今年、17歳になりました」
「じゃあ、私と同い年だ!あ、私のことはマリナって呼んで。みんな私より年上だから、気楽に話せる人が出来て嬉しい!」
マリナは弾けるような笑みを浮かべるが、ティーは一瞬、ぽかんと口を開けて。
「マ、マリナ…で、いいのですか?」
「うんうん!敬語もいらないし!実は私も今年入ったばっかりで、全然先輩って感じじゃないんだ。…あ、私もティーって呼ぶけど、いいかな?」
「そ、それは、全然…」
親し気に話しかけてくれるマリナに、ティーはぎこちなく頷くのがやっとだった。…こんな風に、ティーと対等に接してくれる使用人など、ロイズ家にはいなかったから。
 




