終-8 灰色少女のその後
使用人たちはというと、今は来る結婚式の準備に向けて大忙しだ。
パーティーを取り仕切るのは侍女長・アンヌ。ジョゼフはコース料理のレシピ作りに精を出しているし、マリナはもちろん、スタイリストに抜擢された。
この1年でクライン家の使用人たちにも変化があり、ノエラは数か月前、宣言通り病気を克服して戻ってきたキースについて、クライン家を出た。今は以前のようにキースの身の回りの世話をしながらも、今後もクライン家への協力は惜しまないつもりだ。
さらに、ノエラと入れ替わるようにして、産休を取っていた侍女のエマが、元気な赤子を連れてクライン家に挨拶にやって来た。
上の子供たちが率先して家事や育児を手伝ってくれているそうで、これから少しずつ、侍女の仕事に復帰していきたいとのこと。人手が足りない侍女チームは大喜びで、今はエマに負担がかからないよう、短時間勤務で復職してもらっている。
そして、そんなクライン家の使用人たちをまとめ上げるルーは今、セルジオとともに招待客の調整の真っ只中だった。
王家からは、レアンドルが代表して出席する意向があった。そしてもちろん、ティーの家族となったオルレアン公爵家も、是非とも一家で出席したいとのこと。更にはエヴル伯爵家、それに領地内からも、キース家を始め多くの人々を招待する予定だ。
「これはこれは…また随分と、大人数をご招待されましたな」
「なに、我がクライン家の庭園を隅々まで使えば、十分入り切る人数だろう?」
出席者リストに目を通しつつ、ルーが早速席次表を作り始める。セルジオも穏やかに微笑みながら。
「…セレンもティーも、いつも自分のことより、周りの人々のことを思う子だ。だから、この喜ばしい1日くらいは、2人には『思われる』側にいてほしいのだよ。多くの人々からの祝福を全身で受け止めて、幸せを感じ取ってほしい。…ただの、親馬鹿かも知れんがね」
セルジオが苦笑すると、ルーはゆっくりと首を横に振った。
「いいえ。私も、同感でございます」
いつも通りぴしりと一礼してから、顔を上げたルーの口許には、温かな笑みが浮かんでいる。
それを見て、セルジオも嬉しそうに、微笑んだ。
そして、その願いが聞き届けられたかのように。
迎えた結婚式の宴では、空は晴れ渡り、数多の招待客が祝福に訪れた。
セレスティンの隣、受け継がれてきた純白のウェディング・ドレスに身を包んだティーの髪には、二連の真珠が輝いている。
一つは母オフィーリアの、そしてもう一つは、セレスティンから贈られた髪飾りだ。
マリナが結い上げたグレイシー・アメジストに差した控えめな白の光が、今日はどこか誇らしげに見えた。
互いに何度も見つめ合っては微笑む2人に、これからも幸多きことを願い、結婚式は終始、笑顔が溢れていたのであった。
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