16-10 灰色少女の真実
「はは、証拠と来たか。それじゃ、こんな質問はどうかな?」
軽やかな笑みを零しながら、レアンドルは続けた。
「君が提出した課題の中に、国政に関する小論文があるね。第7代女王アンジェリーナが執り行った災害救済措置について論じているけれど、この法令が出されたのは王歴何年だったかな?」
「…っ」
「あれ、ど忘れしちゃったかい?じゃあそもそも、この『災害』ってどんな出来事だっただろう?」
アリーシアは、答えられなかった。レアンドルは苦笑を漏らしつつ。
「自分で書いた論文なのに、こんな簡単な質問にも答えられないんだ。…もう、証拠は十分だろう?」
アリーシアは屈辱にぶるぶると震えながら、俯いた顔を紅潮させていく。そして。
「…ええ、そうよ!大体、宿題をやらせて何が悪いの!?ティーは私の使用人よ!どう使おうと私の自由じゃない!!」
「アリーシア!お前という子は…!!」
愛娘の口から飛び出した言葉に、ロイズ伯爵は今度こそ、絶望に天を仰いだ。
これまで、アリーシアのためにどれほどの大金を注ぎ込んできたか――ロイズ家の全財産を投じて、アリーシアの教育に賭けてきたと言っても過言ではない。それがすべて、無駄だったと言うのか。
だが、アリーシアはなおも自分の非を認めようとはせず。
「私がやりたくないことは全部、使用人にやらせればいいのよ!私は選ばれた存在だから、それが許されるの!ねぇ、そうでしょう、お父様!!」
ロイズ伯爵にはもう、娘を叱りつける気力も残っていない。
が、レアンドルはここでようやく合点がいった、とでも言うように、両手をぽんと合わせてみせた。
「『選ばれた存在』、ね。…成程。君の思考は、このとんでもない勘違いの上に成り立っていたというわけか」
「勘違い…?」
ぴくりと眉を吊り上げるアリーシアを諭すように、レアンドルは。
「君はさっき、こうも言ったね。レティーシア嬢のことを、『私と違って何の価値もない子』だと。だが、実際はその逆だ。本当に無価値な人間は君の方なんだから」
「…なんですって!?」
カッとなって振り上げたアリーシアの手を、レアンドルがぱしりと掴む。
「貴族として、人として必要なものを、君は何一つ持っていない。現に君はレティーシア嬢がいなければ、自分一人では何もできないだろう?」
「何言ってるの…!?私は何だって持っているわ!!」
アリーシアは掴まれた手を、力いっぱい振り解くと。
「私の欲しいものは、お父様が全部買ってくれるもの!どんなに高級なドレスもアクセサリーも…それは私が特別だからよ!それに比べてティーはどう!?捨てられて、何もかも失ったみすぼらしい使用人じゃない。あの子はこれからも、一生私に跪いて生きていくしかないのよ!!」
そう叫び散らしてから、アリーシアはぜいぜいと肩で息をしている。
対してレアンドルは、溜息とともに漏れ出た呆れ顔を隠そうともしなかった。
「…ここまで頭が悪いとなると、もはや救いようがないね。この期に及んで、まだ自分の立場すら弁えられないのかい?」




