16-7 灰色少女の真実
セレスティンが、静かに口を開く。
「『グレイシー・アメジスト』――フローリア姫が持っていたのと同じ、ごく稀な精霊色だ」
「グレイシー…?な、なにそれ、そんなの聞いたことないわ!」
即座に反論するアリーシアに、レアンドルは肩を竦めつつ。
「だから、『ごく稀』だって言ってるだろう?何せこの精霊色は、レティーシア嬢を含め、これまでたったの4人しか発現したことがないんだ」
「よ、4人…!?」
レアンドルの言葉に、一同はさらに驚愕する。
だとすればそれは、アリーシアのダイアモンド・プラチナブロンドよりも、さらに稀少な精霊色だ。
「レティーシア嬢は、この僕ですら聞いたことがなかったくらい、超稀少な精霊色の持ち主だったんだよ。あんまりレアなもんで、資料ももはや伝承レベルでしか残ってなくてね。調べるのに苦労したよ」
王立研究所をいくら探しても、めぼしい記録は出てこなかった。そこでレアンドルは、かつて研究所で勤め上げ、今は引退している先人の研究者たちを訪ねて回った。
コルベンヌの精霊石研究の礎を築いた、一流の研究者たちだ。年老いても研究者としての知識やひらめきは衰えることを知らず、レアンドルはその中の数名から、この『グレイシー・アメジスト』という、摩訶不思議な精霊色の話を聞くことが出来た。
そしてレアンドルは、長年『グレイシー・アメジスト』を独自に研究してきたという一人の研究者に辿り着く。
彼は若い頃に偶然、エヴル家に嫁いだ後のフローリア姫と会ったことがあり、その美しく神秘的な精霊色に一目で虜になったという。彼は本業の研究の傍ら、『グレイシー・アメジスト』に関する伝承を地道に調べて回り、一冊の研究ノートにまとめた。
レアンドルはこのノートを、許可を得て写し取ったのだ。
「この『グレイシー・アメジスト』が発現するのは、非常に奉仕的な女性だけだと言われているんだ。実際、先に発現した2人は、どちらも修道院のシスターだったからね。そしてもうひとつ、他の精霊色には無い特徴を持っていて――」
いつの間にやらレアンドルの瞳は、精霊石研究者としての好奇心で輝いている。
「この精霊色は、自らの使命を見つけた時になって初めて、発現するんだよ」
そう、それこそが、これまでティーには精霊色がないと、誤解されていた理由だった。
「実はフローリア姫も、王宮にいる間は精霊色が発現しなかったんだ。それが、後に夫となる当時のエヴル伯爵と出逢った頃から、徐々に髪が輝くようになっていった」
それはまさに、この数か月でティーの髪に起きた現象そのものだ。
ロイズ家では一切発現しなかったグレイシー・アメジストが、クライン家に来てから、現れるようになったのは――
「クライン家で、レティーシア嬢は生涯支えるべきパートナーと出逢ったんだ。セレスティンという、愛する伴侶にね。セレンと共に、クライン辺境伯領の無欲で誠実な民たちを守ること。それこそが、レティーシア嬢の使命だったんだろう」
言われて、セレスティンとティーは互いに顔を見合わせ、頷き合った。
そんな2人を前に、小刻みに震えながら立ち尽くすアリーシア。レアンドルは、にっこりと微笑みかけてから。
「精霊色だけは、レティーシア嬢に勝ってるって思いたかったんだろう?残念だったね。」




