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16-3 灰色少女の真実



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もう、17年も前の話だ。


セルジオにとってマシュー・ロイズ氏は、人として最も尊敬できる男だった。父親であり、教師であり、そして親友でもあった。


そんなマシューが病床に着いたと聞き、セルジオは急ぎ彼のもとを訪ねた。…いや、実際に病気が発覚したのは、1年余り前のこと。マシューは懸命に治療を続けたが、とうとうベッドから起き上がることさえ出来なくなるまで、病魔は進行していた。


「私が見舞いに駆け付けた時、彼はもう自分の命が残りわずかであると悟っていた。そんなマシューが、最期まで何より気に掛けていたのは、他でもない、君のことだったよ、マクシム君」


ベッドに横たわったまま、マシューは信頼できる友人に、自身が病に侵されてからのことを穏やかに語り始めた。古い日記の、やや茶色がかったページに目を落としながら、セルジオが続ける。


「君は若い頃、政治の勉強もせずに街で遊び惚けていたようだね。マシューは病の診断を受けた時、随分悩んだそうだ。このまま君に、伯爵家を継がせて良いものか。しかしもう自分には、君に一から仕事を教える時間は残されていない。…そこでマシューは、自分が亡き後も、代わりに君と領民たちを支えてくれるパートナーを、探し出したんだ。」


それが、ティーの母である、オフィーリア夫人だった。


オフィーリアは伯爵令嬢でありながら、優秀な貴族の令息たちにも引けを取らないほど聡明で、政治への洞察も深かった。マシューは病を押して直接彼女のもとへ出向き、息子の伴侶となってくれるよう、深々と頭を下げて頼み込んだという。


「マシューはオフィーリア嬢との結婚を、君が伯爵家を継ぐための絶対条件とした。君は随分反発したようだねぇ。恐らく当時から、そちらのエレノア夫人とは既に恋人関係だったんだろう」


言われて、ロイズ伯爵は気まずそうに目を反らした。


父マシューは、ロイズ伯爵が物心ついた頃から何かと政治に関わらせようとしてきたが、伯爵にとっては苦痛でしかなかった。そして伯爵は成人するや、父から逃げるように街に遊びに出るようになる。


エレノアともそうした豪遊の中で出会った。平民出身でありながら精霊色を持ち、その美貌で王都中の男たちを魅了した女優・エレノア。彼女を口説き落としたい一心で、ロイズ伯爵は家の財産をどんどん贈り物に注ぎ込んだ。


厳格な父は小遣いもろくに与えてくれなかったので、伯爵は真夜中にこっそり家に戻っては、値が付きそうな陶磁器や置時計なんかを持ち出して、街で換金しなければならなかった。


だが、それも今だけの辛抱。いずれは自分が伯爵家を継ぐのだ。そうすればこの家も財産も、思い通りに使えるようになるのだと、伯爵は信じて疑わなかった。貴族の当主は世襲制が基本だし、ロイズ家には他に跡継ぎはいない。


そして自分が伯爵となった暁には、エレノアを妻として迎え入れようと決めていた。


そんな中、父から突然告げられた条件だ。当然ロイズ伯爵は反論したが、父は聞く耳を持たなかった。それどころか、オフィーリアとの結婚を受け入れないのなら、爵位は自分の代までで王家に返上する、お前は平民として職を見つけ、真面目に働きなさいとまで言い出した。


ロイズ伯爵は愕然とした。爵位を失えば、エレノアを養うことはおろか、自分自身の明日の暮らしすらどうなるか分からない。悩んだ末、ついにエレノアと別れ、オフィーリアとの結婚を受け入れることを決意した。


ロイズ家にやって来た花嫁は、美しい銀髪が印象的な令嬢だった。真面目な父が好みそうな、物静かで品のある女性だ。


嫌々ながらに結婚を決めたロイズ伯爵だったが、オフィーリアの清楚で凛とした様に、一目で心を惹かれた。2人の結婚と同時に、父は宣言通り爵位を息子に譲り、ロイズ伯爵もこれからは心機一転、オフィーリアと共に領地を守っていこうと、そう思っていたのだが。


2人で領地管理の仕事を担うようになってから、事情は変わってくる。オフィーリアは何かにつけて、ロイズ伯爵の仕事に口を出してくるようになったのだ。


かつて、父がロイズ伯爵に政治を教え込んできた時のように。


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