15-7 ロイズ伯爵の悪あがき
ロイズ伯爵は改めて判事に向き直り、一段声のトーンを上げた。
「3か月程前、あちらに御座しますクライン家のご子息から、アリーシアへ結婚の申し入れがございました。しかし、アリーシアはリリー・プログラムの受講が決まっていたため、すぐには輿入れが出来ない状況。そこでその間、少しでもクライン家のお力になれればと、ティーを侍女として派遣しました。それが、悲劇の始まりだったのです」
ロイズ伯爵は大袈裟な身振り手振りを加えながら続ける。
「ティーはクライン家に送られたことをいいことに、あろうことかセレスティン君を誘惑し、騙して結婚の約束までさせてしまったのです。きっとあちらの家ではろくに仕事もせず、贅沢で怠惰な生活を送っていたに違いありません。やはり6年前のあの時、我々はこの悪魔のような娘に情けをかけるべきではなかったのです」
ここでロイズ伯爵は再度、目の端でティーの姿を捉えると。
「…ですが、判事殿。我々は、ティーにはこれまでの行いを悔い改め、今度こそまっとうな人間として生きてほしいと望んでおります。ティーが誠意をもって謝罪するのであれば、処罰は必要ありません」
「ほう。と言いますと?」
「ティーに対し、アリーシアへの謝罪と、和解金の支払いを求めます。それで、全てを許しましょう」
そう言い放った後、今度は俯くティーを、憐れむようにじっと見つめて。
「ティー。お前は本当に、身分も心も卑しい娘だ。セレスティン君をどれだけ巧妙に騙したところで、クライン家の花嫁など務まるわけがない。本来ならばお前は今すぐ、この地下牢に投獄されて然るべきだが、私が最後のチャンスを与えてやろう。自らの罪を認め、我々ロイズ家とクライン家の皆様に、生涯かけて償うと誓いなさい」
「…っ」
事実無根が並べたてられたロイズ伯爵の言い分に、しかしティーは何も言い返さなかった。その横でセレスティンは、こっそり上段のレアンドルと目配せする。
(…やはり、君の推測通りだったな)
段上からレアンドルも、こっそりウィンクを返してきた。
迎え撃つ準備は万全、ということか。
判事は再び、ガベルを鳴らす。
「それでは次に、レティーシア嬢。今しがたロイズ伯爵が訴えた罪を、認めますか?」
判事からの視線を受け、ティーは一度、クライン家の面々と頷き合った後。
静かに立ち上がり、凛として前を向く。
「いいえ。私は、アリーシア様を突き落とすことも、セレスティン様を騙すこともしておりません」
判事を真っ直ぐ見つめ返し、そうきっぱりと言い切った。




