15-4 ロイズ伯爵の悪あがき
まだぼんやりと霞がかかったようなティーの意識が、丁寧なノックの音を辛うじて捉えた。そして。
「ティー。入ってもいいか?」
「セレン様…」
扉を開けて、セレスティンが入って来た。ティーはベッドの上で身体を起こすと、慌てて髪を整える。
「具合は?…まだ顔が赤いな」
「ええ、薬を飲んだので、だんだん楽になってきました」
ようやくティーの笑顔が見えて、セレスティンも安堵の笑みを浮かべた。
「今日はお仕事をお休みしてしまって、申し訳ありませんでした」
「そんなこと心配しなくていい。…あれだけ酷い目に遭ったんだ。必要なだけ休んでくれ」
そう言って、セレスティンがティーの髪を優しく撫でる。ティーはというと、困ったように目を反らしつつ。
「…あの、セレン様…あまり近づいて、熱がうつったら大変ですから」
それを聞くなり、セレスティンは――髪から頬に手を滑らせ、唇を重ねた。
「伝染病じゃないんだから、うつることは無いだろう?」
「…も、もう、セレン様…!」
ティーは顔を真っ赤にして抗議の目を向けるが、セレスティンはそのまま、ティーを胸の中へ抱き寄せる。
「…今は何も考えず、療養に専念してくれ。ロイズ家のことはもう心配いらない。君に手出しはさせないさ」
「――…」
セレスティンの腕の中、温もりと鼓動の音に包まれながらも、ティーは。
「…本当に、ロイズ家はこのまま諦めてくれるでしょうか」
ぽつりと呟いたティーに、セレスティンも視線を落とす。
「ロイズ伯爵は、アリー様のためならどんなことでもする方です。それに…確かに伯爵の仰る通り、私ではとても、セレン様には釣り合いません。爵位のない、下賤な身分の私が、本当にセレン様の結婚相手になったなら――クライン家の名に、傷をつけてしまうのではないでしょうか」
セレスティンはそっと身体を離し、ティーの目を真っ直ぐに見つめる。
「身分なんて関係ない。君こそクライン家の妻に相応しいと、この家の誰もが認めている。俺は、君以外の女性と結婚するつもりは無いよ」
「…ですが、この国のすべての人々が、クライン家の皆さんのように大きな心を持っているわけではありませんから」
俯き、瞳を陰らせるティー。




