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王子に恋をした村娘  作者: 悠木菓子
◇2章◇

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第99話 別離



 この数日、アンジュはベッドの上で過ごす時間が多かった。


「ふう・・・」


 というため息ばかりついてしまうのは、体調が優れないからだ。しっかり睡眠をとっても、滋養のあるものを食べても身体のだるさは抜けない。イルは稽古を続けているが、それを見学しに行く気力もなかった。光魔法の使いすぎだけでなく、子を宿したことが関係しているのだろうか。


 それでも体調が良いときは、ソファに移動して気分転換をした。


 まずは、バッジャキラから帰ってきたら書こうと思っていたユアーミラへの手紙だ。詳細は伏せたが、バッジャキラに行ったことや、魔法だけでなく剣術や体術の稽古をつけてもらったことなどを書き綴った。


 次に刺繍。バッジャキラで誕生日を迎えたとき、レイフォナーは色々用意していると言ってただけあって、装飾品、ドレス、書物、そして刺繍道具などを贈ってくれた。レイフォナーに出会った頃、自分が刺繍したハンカチを気に入ってくれたことがあった。それを覚えてくれていたのかと思うと嬉しくなった。


 そして一番大事なのは、光剣の柄頭に新たにはめこまれた黄金色の宝石に魔力を込めるという作業だ。二度目にロネミーチェの森を訪問したとき、いずれクランツと戦うことになったときに役立つはず、とオラゴネルに言われたからだ。レイフォナーが身に着ける指輪の宝石に魔力を込めたときは数分で満杯になったが、この黄金色の宝石には毎日込めてもいっぱいにならない。


 他にも読書をしたり、キュリバトや侍女がおしゃべりに付き合ってくれた。


 多忙なレイフォナーは、一日一回は部屋を訪れてくれた。だが数分で帰ってしまう。夜、一緒に眠ることもなくなった。身体を気遣ってくれているのだろうが、距離を置かれているように感じた。






 ある日の夜。キュリバトも侍女もいなくなった静まり返った部屋で、ベッドで横になっていたアンジュは今後について考えを巡らしていた。

 

「そろそろきちんと話しをしなきゃいけないよね・・・まだ起きてるかな」

 結論を出し、覚悟を決めてベッドから降りた。




「こんな時間にどうされたのです?」


 そう言って、驚きながらも執務室に通してくれたのはサンラマゼルだ。日付が変わろうとしている時間で、室内には彼とレイフォナーしかいない。

 ここに来る前、先にレイフォナーの部屋を訪ねた。すると部屋を警備している衛兵に、「まだお戻りになっていません」と言われてしまった。時々メアソーグに戻りつつも、二週間ほどバッジャキラに滞在してしまったため仕事が溜まっているのだ。


「お忙しいのに、お邪魔して申し訳ありません」

「いいよ、休憩しようと思っていたから。座って」


 相変わらずの優しさに、覚悟が揺らぎそうになった。ソファに座り、心を落ち着かせていると、いつもなら横に来るはずのレイフォナーは真向かいに腰を下ろした。やはり距離を置かれている気がする。


「その・・・今後の私の処遇について、レイフォナー殿下はどのようにお考えなのでしょうか?」

 目を見開いたレイフォナーは、正直に考えを述べた。

「・・・アンジュは側妃として迎えるつもりだ」


 レイフォナーの表情からして、悩みに悩み抜いて出した結論なのだろう。


「それは辞退させていただくことはできるのでしょうか?」

「!?」


 その発言にレイフォナーは息を呑み、書類に目を落としていたサンラマゼルもアンジュを見た。


「田舎者でもプライドはあります。二番目の妻など、許容できません。それに・・・妻を複数持つことは、レイフォナー殿下の信条に反しますよね?無理に私を娶る必要はありません」

「辞退して・・・アンジュはどうするのだ?」

「もちろん、村に帰ります」

「アンジュと離れるなんて考えられない!私が愛しているのはアンジュだけだ!!」


 引き止める理由に子の存在を言及しないということは、レイフォナーはまだ知らないのだろう。バラックは黙ってくれているようだ。


「光剣のために勝手に条件を引き受けて、あなた様の気持ちを蔑ろにして、求婚を拒否するような身勝手な私は、お飾りであろうと妃には相応しくありません」


 なんとなくラハリルの気持ちがわかった。立場も状況も違うが、彼女は王女としての務めを果たすために、想いを寄せる相手がいながらレイフォナーに嫁ごうとしている。自分は私情や子を優先し、そのために愛するレイフォナーから離れることを決めた。それは胸に大きな穴が空いたような喪失感だ。


 それでも、平静を装うための笑みを浮かべてしまう。


 そもそも身分を弁えずに、王族であるレイフォナーに恋をしてしまったことが間違いだったのだ。一緒に過ごす時間が増え、どんどん欲が出てしまった。愛してると言われ浮かれてしまい、いつかこの人の妻になれたら、という図々しい夢を抱いてしまった。以前読んだ身分差の恋愛小説に影響されてしまったのか、物語と現実を混同してしまったようだ。


 レイフォナーは少し俯いて口を開いた。

「本当に・・・辞退するのか?」

「はい」

「・・・そう、か」


 悲しみを通り越して絶望のような目をしているレイフォナーに、胸が締めつけられた。


「だいぶ体調が良くなりましたので、明日村に帰ります。大変お世話になりました」


 アンジュは立ち上がって一礼し、足早に部屋を出た。


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