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王子に恋をした村娘  作者: 悠木菓子
◇2章◇

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第97話 光剣



「ここは・・・」

 目を覚ましたアンジュがそう呟くと、すぐ近くでガタッという音がした。

「アンジュさん!」

 キュリバトが椅子から立ち上がった音だ。


 それが合図になったのか、部屋にいた侍女たちが忙しなく動き始めた。一人は部屋に残り、他の者はレイフォナーへの連絡や、消化の良い食事や果物などの用意に向かった。


 ここはメアソーグ王城で、アンジュが滞在しているときに使わせてもらっている部屋だ。


「お加減はいかがですか?」

 心配そうなキュリバトはアンジュの顔を覗き込むように言った。

「体が重いような・・・だるさがあります」


 アンジュがそんな体を起こそうとすると、キュリバトが背中に手を回して手伝った。


 光の魔力を使いすぎたのだろうか。それとも一つ目の条件を達成したことで緊張の糸が切れ、一気に疲れが出たのだろうか。それに、いつメアソーグに戻ってきたのか。記憶を遡ると、バッジャキラで残りの砂漠に光魔法を使って緑を確認したところから、現在までの記憶がまるっきりない。

 

 キュリバトの話では、砂漠で気を失って翌日になっても目を覚まさず、その日のうちにメアソーグに戻ったものの、さらに二日眠っていたらしい。



 ほどなくして、ショールとチェザライを連れたレイフォナーが部屋に駆け込んできた。


「アンジュ!よかった!!」

「心配したぞー」

「でも、顔色よくないね」


 三人は、体を起こし水が入ったグラスを持っているアンジュを見て、とりあえずは安堵した。


 レイフォナーはベッドに腰掛け、アンジュの頰を撫でた。

「気分はどうだ?」

「・・・大丈夫です。あの、あれから砂漠はどうなっているのでしょうか?」

「砂漠だった場所すべてで、今も緑がしっかり育っているそうだ。あとは自国の力だけで維持できるだろう」

「よかったぁ」

「それと・・・」

 

 レイフォナーはそう言って、テーブルの上の細長い木箱に目を向けた。ショールが木箱を取りに行き、アンジュに渡した。


「これは?」

「開けてみて」


 アンジュは少し警戒しながら木箱を開けた。中には、絹のような光沢のある赤い生地が敷き詰められ、それに沈むように切先から柄頭まで銀色に輝く剣が収められていた。


「光剣!夢の中に出てきたものと同じだわ」

「夢?」

「イルとキュリバトさんとバッジャキラに行ったとき、夢にこれが出てきたのです」

「二百年前の記憶だろうか・・・」


 そのときの夢は光剣が逃げるように消えてしまったのだが、こうして手に入れることができた。二百年前に作られたものとは思えないほどの美しさだが、夢とは異なる点がある。柄頭にあるはずの黄金色の宝石が無いのだ。それを留めていた四つの爪だけがむなしく残っている。


 アンジュはそのことをレイフォナーに伝えた。


「私もそこに宝石がはまっていたはずだと思い、バッジャキラ国王に尋ねたのだが・・・消えたそうだ」

「消えた・・・?」


 国王の説明によると、二十年ほど前にマウべライドから光剣を奪ったときには、黄金色の宝石がはまっていた。しかし光剣では砂漠化を止められないとわかり、木箱に入れて宝物庫で保管することにした。最近までその存在すら忘れていたが、メアソーグに譲渡するかもしれないと思い、久しぶりに木箱を開けると黄金色の宝石は消えていたという。


「クランツを封印していたのはその宝石だ。封印が解けたと同時に消えたのかもしれないな」

「なるほど・・・」


 アンジュが柄を握って持ち上げると、光剣は黄金へと色を変え始めた。

「えっ!?」

 慌てて光剣を木箱に戻すと、もとの銀色に戻った。


 レイフォナーやバラックが手にしても変化しなかったそうで、光剣は光の魔力を有している者でないと効果を発揮しないようだ。


「あの・・・光剣を手に入れたということは、二つ目の条件もすでに達成した、ということでしょうか?」

「・・・いや、まだ準備を進めている段階だ。だがバッジャキラ国王は砂漠が緑を取り戻し、大層ご機嫌でね。帰国する際に光剣を譲ってくれたんだよ」

「そうでしたか・・・」


 二つ目の条件。それはレイフォナーとラハリルの婚姻だ。この話題になるとどうしても空気が淀んでしまう。ショールとキュリバトは、「話題を変えてくれ」という視線をチェザライに送った。


「えー・・・っと、そうそう、クランツ!光剣入手を邪魔してくると思ってたんだけど、何も仕掛けてこなかったね〜」

 と、チェザライはなんとか話題をしぼり出した。

「そうだな・・・何か企んでいるのかもしれない」


 レイフォナーはそう答えたが、それ以上誰も口を開かなかった。アンジュがこの気まずい沈黙がいつまで続くのかと思っていると、部屋のドアをノックする音が響いた。


 対応した侍女がレイフォナーに、侍医が訪ねてきたことを報告した。


「私が呼んだ。あとでバラック先生も来るから。アンジュはしっかり身体を休めて」

「はい」 

 レイフォナーはアンジュの頬にキスをして、部屋を出ていった。



 侍医からいくつかの問診や検査を受けたアンジュは、特に問題なしと診断されたが、疲れが溜まっているため数日は静かに過ごすよう言われた。


 侍医が部屋を出ると、入れ違いに姿を見せたのはバラックだった。


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