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王子に恋をした村娘  作者: 悠木菓子
◇1章◇
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第9話 もう一人の婚約者候補



 メアソーグの王都や周辺の街は飾り付けされ、国内だけでなく他国からの旅行者も訪れており、いつも以上に賑わいを見せている。

 露店には食べ物や宝飾品、雑貨などたくさんの品が並べられ、店主たちの「新鮮だよー!」「試食してみないかい?」「珍しい石の指輪があるよー!」という呼び込みに、客たちはみな興味津々だ。

 広場では、楽器の生演奏に合わせて踊り子が観衆を魅了し、大道芸人が技を披露するたびに歓声が起きている。


 現在、国王陛下の即位十五年を祝う祭りが開催中だ。




 王城では、各国の貴賓を招待したパーティーが開かれていた。

 その中にはブランネイド皇帝の姿もあり、当然レイフォナーの婚約者候補・ユアーミラも参加している。さらに、メアソーグの南に隣接するバッジャキラ王国の国王と、その娘のラハリルの姿もある。


 ラハリルは国王の第一王女で、レイフォナーのもう一人の婚約者候補だ。



 今日も真っ白な軍服にマントをなびかせているレイフォナーは、夜会や視察のときはいつもこの格好だ。毎回衣装選びに頭を悩ませていた執務補佐に、『衣装係がほしい』と言われてしまった。そもそも毎回衣装を変える必要はないのでは?という結論に至り、自分が統括している騎士団の正装姿が定着した。


「しばらくお会いしないうちに、すっかりレディーになりましたね」

「ありがとうございます」


 レイフォナーはラハリルとダンスの最中だ。 

 まだ十六歳のラハリルだが、以前会ったときに比べると、かなり大人っぽくなった印象を受けた。健康的な肌色に、肩までの黒髪と黒い瞳。

 彼女が身に着けているオレンジ色のタイトなドレスは、バッジャキラの伝統的な織物で作られたものだ。近くで見ると、赤や黄色の糸も織り込まれている。

 金で統一されている宝飾品には宝石は使われていないが、一流の職人の手によって加工されたであろう繊細な細工が施されており、動くたびに上品な輝きを放つ。


 落ち着きがあって聡明なラハリルは、レイフォナーが好印象を持っている数少ない女性である。


「兄君はお元気ですか?」

「はい。兄もレイフォナー殿下に会いたがっておりましたよ」

「昔はよく遊びに来てくれましたが、最近は全然で・・・寂しいです」

 彼とよく遊んだことを思い浮かべ、残念そうな表情を見せた。

「父の仕事の手伝いが忙しいみたいです」


 互いの近況を話していると、演奏が終わった。ラハリルの手の甲にキスをし、「パーティー、楽しんでくださいね」と言って、次の相手の元に向かった。



 その相手とはユアーミラである。


 ダンス中のレイフォナーは笑みを崩さないよう必死だ。

 彼女は今日も、大粒の色とりどりの宝飾品をふんだんに身に着け、鼻が痛くなるほどの強い香水をまとっている。腰から美しいドレープがたっぷりと施された紫色のドレスにも、小さなダイヤモンドが散りばめられているが、派手すぎる宝飾品に目がいってしまい、霞んで見えてしまう。


 自分よりも先にラハリルとダンスしたことに文句を言われてしまったが、あなたが遅れて来たせいでしょう、と逆に言ってやりたくなる。

 彼女の遅刻癖はいつものことだ。見た目の美しさにこだわりが強く、化粧や髪形に納得がいかなければ、侍女たちに何度でもやり直しをさせるのだ。

 

「今日はたくさんお相手してくださいます?」

「それが・・・このあと各国のお客様との挨拶がありまして」

 お決まりのセリフで断るが、嘘ではない。

「もうっ!またですの!?ではそれが終わったら、レイフォナー様のお部屋にお邪魔したいですわ!」

「婚約者候補とはいえ、婚姻前の女性を部屋にお連れしたら私は怒られてしまいます」

「周囲の言葉など、気にする必要ありませんわ」

 ユアーミラは断られてばかりで不機嫌な表情だ。


 実際には、自室に女性を連れ込んでも咎められることはないが、これまで誰も招き入れたことはない。ユアーミラを部屋に入れたくない、というのが本音だ。 


「私、小心者なんです」

 やんわりと断ると演奏が終わり、レイフォナーは心の中でため息をついた。

「私は父の元へ行かねばなりませんので、これにて失礼します。パーティー楽しんでください」

 そう言って、ユアーミラの手にキスをした。




「ダンス、お疲れさん」

 顔を歪めているレイフォナーに、ショールは笑いを堪えながら言った。

「鼻の中にまだ匂いが残っている」

「移り香がすごいよ・・・」

 チェザライも強い匂いは苦手で、顔を歪めていた。

「風呂で洗い流したい・・・」


 つい、ユアーミラとは真逆の女性と比べてしまう。アンジュは花や草木の自然な香りをまとっている。彼女は全てが自然体で、純粋で媚びない性格や屈託のない笑顔・・・それらを思い出すと、不思議とユアーミラから移った香水の匂いが気にならなくなった。

 

 アンジュのことを考えたおかげか、気持ちを切り替えることができた。


「さて、挨拶に行くか」

 そう口に出したとき、横から声をかけられた。


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