表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王子に恋をした村娘  作者: 悠木菓子
◇2章◇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/129

第89話 出発前日①



 今日はバラックとの稽古が休みであり、アンジュは部屋で以前買った経済書とにらめっこをしていた。


 図解を見てもよくわからないところがあり、無意識に腕を組むと左肘にズキッと痛みが走った。昨日の稽古でうまく受け身がとれず、体勢を崩して転んでしまったのだ。これまでの稽古で擦り傷や打撲は見慣れてしまった。


 いつかの稽古後、擦り傷を光魔法で治そうと試みたことがあった。すぐに諦めてしまったのだが。どうやら自分を治療するには、相当な光の魔力と時間が必要であることがわかり、消毒をしたり冷やしたりと自然治癒に委ねることにした。


 閨事の際、擦り傷や打撲を見たレイフォナーに『治さないのか?』と聞かれたが、正直に話すと過保護が加速してしまいそうだと思い、痛みがあるほうが実践的稽古ができると誤魔化した。


 稽古や勉強だけでなく、光魔法での自己治癒の訓練にも取り組むことにしよう。




 その日の午後。アンジュはダンデリゼルと手合わせの最中だ。


 イルとキュリバトは、ベンチからそれを眺めていた。

「アンジュ、キレッキレだな」

「稽古が始まった頃とは見違える動きですね」

「ダンデって女にはだらしないけど、体術はちゃんと一流だよな」

「そうですね・・・一流の紳士には一生かかってもなれないでしょうが」


 そんな会話をされているとは知らないダンデリゼルは、時々目をギラつかせ、アンジュとの手合わせを楽しんでいる。


「今の蹴り、スピードも威力もよかったよ!」

 と褒めつつ、アンジュの攻撃を容易く受け止め、躱している。

「僕の動きちゃんと見えてるねぇ」


 ニヤリと笑ったダンデリゼルの拳が胸元を狙っていると感じたアンジュは、ギリギリのところで躱したが体勢を崩してしまった。転ぶと思い、咄嗟に地面に右手をつき、両脚をダンデリゼルの脚に絡めた。このまま地面に倒して押さえ込んで、首に腕を回して絞める、という流れが頭の中でできあがっていく。だがダンデリゼルは華麗に抜け出し、逆に絞め技をかけられてしまった。


「うっ、ぐっ、ううぅぅ!」

「惜しかったね。この状態で反撃する?それとも抜け出す?あと五秒で終了しちゃうよ〜。五、四、三・・・」


 アンジュはどちらもできないまま、手合わせが終了した。解放され、はあ、はあ、と大きく呼吸をしながら肘をついて上半身を起こし、顔から流れ落ちる汗が地面に一つ、二つ、三つと染みを増やしていくのを見つめていた。



 アンジュはゆっくりと立ち上がり、声を絞り出した。

「先生っ、ありがとう、ござい、ましたっ」

「お疲れさま。アンジュちゃん、すごく上達したね。流れの中で自然と身体が動いている。僕にはまだまだ及ばないけど、そこら辺のチンピラなんて目じゃないし、剣を持った新人騎士にも素手で勝てるんじゃないかな」

「はいっ!」


 自分でも成長を感じている。ダンデリゼルは先程まったく本気を出していなかったが、動体視力や判断力、身体の柔軟性が向上していた。それに最近、バラックにはコントロールが身についてきた、フリアにも反応が早くなったと褒めてもらえたのだ。毎日の筋トレと稽古のおかげなのか、体も引き締まってきたように思う。


 二人はベンチに座り、水分補給をした。

「明日だよね?バッジャキラに行くの」

「はい。馬車ではなく魔法で向かいます。帰りは早くても明後日の夜になると思うので、次回の稽古はお休みさせていただきます」

「りょーかい。ということは、次回はイルと二人きりかぁ。ふふ、存分に鍛えてあげる」

「俺も欠席しようかな」

「えぇ!?やだ、寂しいじゃんか〜」


 そこへ、スズメほどの大きさでインコのような鳥がアンジュの膝に止まった。全体的に白っぽいが、体表の所々に緑色の風が流れている。その鳥からは馴染みのある魔力を感じた。


「チェザライ様!」

「アンジュちゃん、レイくんが呼んでるよ。稽古が終わったらイルと一緒に執務室に来てね。ダンデリゼルは来なくていいから」

「え、俺も?」

「僕も呼んでよ!」


 子供のような高い声の鳥は、ニコリと笑うように目を細めて煙のように消えてしまった。




 ダンデリゼルは腑に落ちないといった顔をしていたが、そもそもこのあと用事があるため帰宅した。レイフォナーの執務室に通されたアンジュとイルは、なぜ呼ばれたのだろうかと不安そうな表情を浮かべている。


「掛けてくれ」

 レイフォナーは執務席からソファに移動し、アンジュとイルはその向かいに着席した。

「二人に渡したいものがあってな。まずはアンジュにこれを」

 と言われて差し出されたのは、高級そうな封筒だった。

「ユアーミラ皇女からの手紙だ」

「わあ!」


 中の手紙を取り出すと、美しい文字が目に飛び込んできた。丁寧な文章は失礼ながら代筆してもらったのかと思うほど、可憐なお嬢様が書いたような印象を受けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ