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王子に恋をした村娘  作者: 悠木菓子
◇2章◇

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第84話 重なる凶事



 王都の書店にやってきたアンジュは棚の前で悩んでいた。子供向けの歴史書はいくつもあり、手にとって開いてみるが一つに決められない。


「どれにしよう・・・」

「こちらは年表やイラストが多くてわかりやすいかもしれません」

 と言って、書籍を渡してきたのはキュリバトだ。

「僕は勉強キライだから、自発的に勉強しようとする人が理解できない」

 と言ったのは、うんざり顔のダンデリゼルだ。

「アンジュさんは向上心が高いのです。邪魔をするならお帰りください。そもそも、今日はあなたをお呼びしていませんが」

「つめたいなー」


 ダンデリゼルは体術に優れているが、女性を見れば口説いてばかりな軽薄な性格だ。キュリバトはそんな男性が好かないのである。だがダンデリゼルは何度冷淡な態度をとられても心にダメージを受けていないようだ。

 そんな彼は週末ということもあり学園が休みで、アンジュが出かけるという話を聞きつけて勝手に付いてきたのだ。




 キュリバトが薦めてくれた歴史書と経済書を購入したアンジュは二人と一緒にカフェに立ち寄り、丸いテーブルの四人用のテラス席で休憩することにした。


 デート慣れしているダンデリゼル一押しのお店なだけあって、紅茶もケーキも大満足な美味しさだ。それだけでなく、テラス席から眺める街の景観や人々の行き交う姿は、日々の厳しい稽古とは真逆の穏やかさで疲れを癒してくれる。


 だが、そんな時間は長くは続かなかった。


「今日はいい天気だね、アンジュ」 

「なっ!?」


 一つ空いていた椅子にクランツが座り声をかけてきたのだ。


 驚いたアンジュは、思わず手に持っていたフォークを落としてしまった。瞬時に立ち上がったキュリバトは右手に炎を出し、ダンデリゼルは口にケーキを運んでいた手を止め、目を細めてクランツを見つめている。


「座れ。こんな街中でやり合えば、どれだけの犠牲者が出るだろうな?」

 クランツはキュリバトを睨みつけ、キュリバトはアンジュに視線を移した。

「キュリバトさん、座りましょう」

 アンジュは事を荒立てたくないため、クランツに従うことにした。


 炎を収めたキュリバトは、自分が座っていた椅子をアンジュの椅子にピッタリと寄せて腰を下ろした。そして守るようにアンジュの腰に左手を回し、テーブルの下の右手はいつでも魔法を出せるよう構えて、クランツを睨み返した。


 クランツは黒いマントを纏い、椅子に浅く座って背もたれに体を預けている。余裕たっぷりな表情で腕組みをしている彼に、驚きと恐怖でドキドキしている心を悟られないようアンジュは平静を装って尋ねた。


「こんにちは、クランツ殿下。何かご用でしょうか?」

「兄上は一緒じゃないの?」


 アンジュはなんとなく、クランツの用事は自分ではなくレイフォナーだと感じた。


「レイフォナー殿下はお忙しいので」

「・・・ふうん」

「言伝ならば、私が承りますが」


 アンジュをじっと見つめたあと、無言で立ち上がったクランツは「またね」と言って去っていった。


 その姿が見えなくなるまで目で追っていた三人は、ピリついた空気を払うようにため息をもらした。すると、キュリバトはすぐに魔法でカラスのような鳥を作って飛ばした。行き先は王城にいるレイフォナーで、クランツのことをいち早く報告するためだ。


「久しぶりに見たわ、第二王子」

 と言って、ダンデリゼルは再びケーキを口に運んだ。

「お知り合いなのですか?」

「知り合いっていうか・・・一度会ったことがあるってだけ」

 

 幼少の頃、王城で開催されたパーティーに無理やり参加させられたときにクランツと話をしたのだという。年が近いということもあって、親同士は友人になってくれればと顔合わせをした。だが内気で一人の時間を好むクランツは乗り気でないようだったため、それ以降会うことはなかった。


「あのときちょっと変わったヤツって印象だったけど、やっぱ変なヤツだな」

「先生はその・・・クランツのこと、どこまで知っているのですか?」

「アンジュちゃんがクランツに操られたブランネイド皇女に転移させられたあたりから知ってる」


 それはつまり、全てを知っているということだ。そもそも事情も知らない人物を稽古の先生に任命しない。きっとフリアも知っているのだろう。そのことに嫌悪感はないが、なんだか巻き込んでしまったようで胸が痛んだ。


「食べ終わったら帰りましょうか・・・」




 微妙な空気が流れたまま、三人はカフェを後にした。口数が減ったダンデリゼルは屋敷に帰り、アンジュはキュリバトと王城に戻ってすぐにレイフォナーの執務室に向かった。


「レイフォナー殿下は不在です。室内には執務補佐官だけです」


 レイフォナーの執務室を警備する騎士にそう言われた。クランツのことや本を買ったことを報告したかったのだが、時間を置いたほうがよさそうだ。


 引き返そうとしたところ、ドアが開いてサンラマゼルが姿を見せた。

「アンジュさん、どうぞ中へ」

 と言って、アンジュとキュリバトを室内に通した。


「クランツのことは後ほどお話を伺います。殿下はつい先程、王妃殿下のお部屋に向かわれました。アンジュさんもすぐに召集がかかるでしょう」

「召集・・・?そういえば、今日は王妃殿下が帰国される日でしたね」

「はい。ですがーーー」


 そのとき、ピアスからバラックの声が聞こえた。


《アンジュ!》

「は、はい!」

《今すぐ王妃殿下の部屋に来てくれ》

「えっと・・・私、場所を知らなくて・・・」

 と呑気に答えていると、バキュリバトに腕を掴まれた。

「私がご案内します」

《急ぐのじゃ!》



 キュリバトに手を引かれ、王城内を全力疾走したアンジュは稽古後かと思うくらい息が上がっていた。


 呼吸を整える間もなく王妃の室内に通されると、十人ほどがベッド周辺に集まっている。レイフォナーだけでなく国王やバラックの姿もあり、凍てつく空気が流れていた。


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