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王子に恋をした村娘  作者: 悠木菓子
◇2章◇

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第83話 和解



「ふわふわの生地、口溶けの良い生クリームと新鮮な果物。悪くないわ」

 

 ケーキを食べたユアーミラはそう感想を述べた。闇魔法で操られていた間は漆黒の瞳だったが、今はアメジストのような美しい紫色だ。気が強く、素直に美味しいと言えないへそ曲がりな性格であるが、美しい姿勢で上品に食べる姿はさすが皇女だ。美容や体型にこだわりがありそうなユアーミラは野菜中心の食生活なのかと思いきや、甘いものや肉類、お酒が大好きなのだという。


 さらには淡いピンクのドレスを纏い、縦ロールをやめた艶のあるストレートな髪をハーフアップにし、愛らしさ漂う化粧によって、以前のような威圧感は消え失せていた。


「よかったです!王城の菓子職人さんが腕を振るいました!」

「あら、我が城も負けていませんわよ。今度、食べにいらっしゃいな」

「よろしいのですか!?ぜひ!」

 

 現在、アンジュはメアソーグ王城の薔薇園でユアーミラとティータイムの最中だ。


 数日前に目を覚ましたユアーミラは宣言通りアンジュと共に入浴とマッサージを堪能し、食事は周囲がビックリするほどの量を平らげた。その後、これまでクランツの闇空間とバラックの研究室の検査台で過ごしていたせいか、久しぶりのベッドでの睡眠は熟睡を通り越して丸一日爆睡し、その翌日、レイフォナーやメアソーグ国王、ブランネイドから駆けつけた父である皇帝の審問に答えた。闇魔法で操られた理由やその間の状況ーーー黒いカラスにアンジュは敵であると唆されてしまったこと。その他にも監禁されていた場所がどのようなものだったか、操られている間の記憶はあるが、クランツの思惑については何も知らないことなどを。

 

「皇女の美しい紫の髪に、そのドレスとてもお似合いです」

「わたくしの趣味ではありませんが、たまにはこのような装いもよいでしょう」


 ユアーミラは相変わらず自尊心が高いが、アンジュに対して以前のような敵意を放っていない。むしろ懐いていると言っていい。アンジュは友達ができたようで嬉しかった。一つ気がかりなのは、女性と仲良くするだけで嫉妬するレイフォナーのことだ。この状況を見られでもしたら、またお仕置きされるかもしれない。


 そんなことを考えているとレイフォナーがやって来て、アンジュは思わず身構えてしまった。


「仲良くなってる・・・」


 アンジュとユアーミラは双子のような似た格好をしていた。アンジュの表情からしてユアーミラに無理に付き合わされている感じはなく、打ち解けているように見えた。その状況にレイフォナーは複雑ではあったが、ユアーミラがもうアンジュに危害を加えることはないだろうと判断し、肩の力を抜いた。


「あら、殿方が女子会に足を踏み入れるなど無粋ですわ」

 ユアーミラはレイフォナーを突き放すような言い方をした。

「女性だけの神聖な集いを荒らして申し訳ありません。ですがユアーミラ皇女、そろそろ出発の時間です」

 

 アンジュとユアーミラの周りには、キュリバトや侍女たちしかいない完全な女子会だ。それを承知でやって来たレイフォナーは、ブランネイド皇帝と共に帰国が決まっていたユアーミラを呼びに来たのだ。


 ユアーミラともっと話しをしたかったアンジュは、寂しさが顔に出てしまっていた。

「アンジュさん、帰国したら文を出しますわ」

「・・・はい!」


 昨日行われた会談では、メアソーグがブランネイドに多額の賠償金を提示した。クランツに操られたユアーミラは被害者だ。監禁に戦闘、巻き込まれた苦痛は計り知れない。だがブランネイド皇帝は必要ないと一蹴した。ユアーミラがそれを望まなかったからだ。クランツに操られたことは、自身の心の弱さにつけ込まれたことが原因であると主張した。屈強で堅物な皇帝は、愛娘の思いを汲むことにしたのだ。

 今後は闇魔法と思われる事柄に関して両国間で情報を共有し、有事の際には協力し合うことが取り決められた。


 そして、ユアーミラはレイフォナーの婚約者候補を辞退した。




 仕度を整えたユアーミラとブランネイド皇帝を見送るため、アンジュとレイフォナーがエントランスに向かうと国王も足を運んでいた。


 皇帝に続いて馬車に乗り込もうとしていたユアーミラは足を止め、振り返ってアンジュたちに近づくと頭を下げた。


「メアソーグ国王陛下、レイフォナー殿下、アンジュさん。この度は多大なご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。今後は二度と闇魔法に支配されないよう、己を律することに努めます。みなさまが導く世の繁栄と平和を心よりお祈り申し上げます」


 顔を上げたユアーミラの瞳には強い意志が宿っており、晴れ晴れとした表情だった。



 動き出した馬車を見送っていたアンジュは、全てが解決したかと思うほど心がスッキリしていた。


 ユアーミラはもう、闇に惑わされることはないだろう。初めて会ったときのこと、転移させられたときのこと、丘でのこと、思い出すとどれも胸が苦しくなる出来事だ。だが最終的に自分にとってもユアーミラにとってもそれらを通して成長につながったように思う。


 そんなアンジュを見ていたレイフォナーは、釘を刺すように言った。

「クランツとの戦いはまだ終わっていないからね?」

「ですね・・・」

「レイフォナーよ。すまし顔をしているが、内心では婚約者候補が一人消えて大喜びなのだろう?」

「父上、私の心を読まないでください」

「お前・・・妃はアンジュただ一人と言っていたな?もう一人の婚約者候補はどうする?」

「・・・白紙に向けて熟考中です」

「そうか」

 と言って微笑んだ国王は、執務室に戻っていった。


 スッキリと晴れ渡っていた心が曇りだした。いつか妃としてレイフォナーの隣に立てるよう、一人でもできることを始めようとした矢先のこの話だ。婚約者候補のことを忘れていたわけではないが、実際話題に上がると胸が締め付けられる。


 レイフォナーはアンジュの手を取り、指にキスをした。

「アンジュ姫。私はこれから休憩なのですが、ご一緒していただけますか?」


 決して憂いが晴れたわけではない。だが優雅に、そしてお茶目に誘ってきたレイフォナーの瞳は、『大丈夫。心配するな』と語っているように思えて、胸の締め付けが軽くなった。


「はい、もちろんです!」


 二人は手を繋いで薔薇園に向かった。このときはまだ、今後待ち受けている試練を知る由もない。


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