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王子に恋をした村娘  作者: 悠木菓子
◇2章◇

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第76話 アドバイス



 翌日。アンジュはキュリバトと共に、ユアーミラを目覚めさせるためバラックの研究室に来ていた。


「イルみたいに筋力が強化されたらどうしよう・・・」

 目の前で眠っているユアーミラのムキムキの体を想像してしまった。

「目を覚まさせることが最優先じゃ」


 実を言うと、アンジュはバラックと顔を合わせるのが気まずいのだ。クランツに脅されて王城を去ったとき、バラックには挨拶もせず手紙も残していなかった。レイフォナーのことで頭がいっぱいだったため、身の回りの世話をしてくれた侍女たちや、魔法の訓練に付き合ってくれたキュリバトやバラックにまで気が回らなかったのだ。


「あの、バラック先生。あのときはご挨拶もせず王城を離れてすみませんでした!」

 アンジュは頭を下げて謝罪した。

「・・・よい。村でも訓練を続けていたのじゃろう?だいぶ光魔法を使いこなせておる」

「はい!」


 師匠の懐の深さに胸のつかえが一つ取れ、ユアーミラの手を握った。ユアーミラと話しをするのは、はっきり言って少し怖い。威圧感と殺意がこもった視線を鮮明に覚えている。だがそんなことは言ってられない。光魔法を意識してユアーミラの心に話しかけてみたが、まったく反応がない。それでも何回か挑戦してみたが、結果は変わらなかった。



「お前さんが言う檻とやらに閉じ籠もっておるようじゃの」

「明日また来ます・・・」


 光魔法自体はちゃんと使えており、自分の声はユアーミラに届いているはずだ。イルの話では闇魔法で操られている間の記憶があるという。解放されて己のやったことを悔やんでいるのか、それとも敵対している自分と話しをしたくないのか。


 バラックは、気落ちしながら帰り支度をしているアンジュを呼び止めた。

「これを渡しておく」

 アンジュが受け取ったのは、ダイヤモンドのように輝く宝石があしらわれた二組のピアスだった。

「これは?」

「宝石にはわしの魔力を込めてある。一組はレイフォナーに渡しておくれ」

「これって、身に着けている人の居場所がわかるのですよね?昨日、レイフォナー殿下からも指輪をいただきましたが・・・」

「お前さんたち二人が同時に同じ場所に飛ばされたらどうする?」


 もしそうなったら自分とレイフォナーの指輪は意味をなさない。このピアスは保険ということだろうか。レイフォナーの指輪と師匠のピアス。鉄壁の守りに包まれたように感じ、胸がじわっと熱くなった。


「ありがとうございます!」

「うむ。だがわしのそれはレイフォナーの指輪とは格が違うぞ」

「と言いますと?」

「会話ができる」

「・・・会話!?」


 このピアスを身に着けていれば居場所がわかるだけでなく、どんなに離れていても魔力を通してバラックと会話ができるそうだ。上級魔法士は言葉を発する生き物を作り出すことができる。これまでチェザライやキュリバトのそれを見てきた。バラックが魔力を込めたピアスはその応用なのだという。


「師匠のピアスがあれば、レイフォナー殿下の指輪は必要ないのでは・・・」


 と思ってしまった。もちろん指輪を外すつもりはないし、常にレイフォナーの魔力を傍に感じて嬉しいのだが。


「あやつはな、嫉妬深いんじゃ」

「愛されてますね、アンジュさん」


 愛する者が他の男の魔力を身に着けているのが許せない、と受け取っていいのだろうか。一体どれだけ言葉だけでなく行動でも愛を示してくるのだろう。その愛に、素直に応えられないことをもどかしく感じてしまった。






「戻りました・・・」

「おかえり」


 王城に帰ってきたアンジュとキュリバトは、レイフォナーの執務室に足を運んでいた。バラックの研究室を出るときご機嫌だったアンジュは、ユアーミラの目覚めに失敗したことを思い出して表情が曇っている。レイフォナーは、どうだった?と聞くまでもなくその表情で理解した。執務席からソファに移動し、サンラマゼルに目を向けた。


「休憩にしないか?」

「お茶をご用意します」

 と言って、部屋を出ていった。

「アンジュ、おいで」


 ぼーっと突っ立っていたアンジュはレイフォナーの隣に腰を下ろそうとしたところ、膝の上に乗せられてしまった。


「あ、あの!人前ですよ!」

「誰も見ていない」

 アンジュは真っ赤になりながら、恐る恐る周囲に目を向けた。


 ショール、チェザライ、キュリバト、全員が目を閉じていた。なにも見てません聞いてません、といった雰囲気を放っている。気を遣わせて申し訳なく思いながらも、今はレイフォナーにくっついて話しをしたい気分だ。


「ユアーミラは目を覚まさなかったのかな?」

「はい・・・何度か呼びかけたのですが、無反応でした」

「アンジュは、私に頼まれて仕方なくユアーミラを目覚めさせようとしてる?」

「仕方なくというわけでは・・・」

「本当は目覚めさせたくない?」

「そんなこと思ってません!」

「うん、わかってるよ。クランツのことは二の次にして、アンジュ自身がユアーミラをどうしたいと思っているかが大事なんじゃないかな」


 元気な姿でブランネイドに引き渡すため、クランツの情報を得るためにユアーミラを目覚めさせる必要があり、それは必然的に光魔法が使える自分の役目だ。

 だがさっきは深く考えずに、とにかく目を覚ましてほしいという事務的感情が先走っていたのかもしれない。まずは心の檻に閉じ籠もっている心情を理解して、自分が思う目を覚ましてほしい理由を伝えることが大事ということだろうか。それに、彼女に対して恐怖心を抱きながら接するなど失礼極まりないことだ。


「こういうのはね、焦りは禁物だよ。諦めずにアンジュの気持ちを伝えれば、きっとユアーミラもわかってくれる」

「・・・はい!」


 レイフォナーは、この様子ならアンジュはやり遂げてくれるだろうと確信した。

 やる気と笑顔が戻った顔が可愛すぎてキスしようとしたところ、アンジュの手が伸びてきて口元を覆われてしまった。恥ずかしそうに視線を外している姿も可愛いが、アンジュに拒否されることほどつらいものはない。


「み、みなさんが見ています!」

 と言われ、外野に目を向けると真顔の三人にじーっと見られていた。

「俺も彼女ほしー」

「僕らのことは気にしないで」

「どうぞ、続けてください」

「お前ら・・・気を利かせて退室するという考えはないのか」


 人前でキスなどできるはずもないアンジュはレイフォナーの膝から飛び降り、少し距離をとってソファに腰を下ろした。

 そこへサンラマゼルが戻ってきて、部屋に流れる甘くも気まずい雰囲気、ショールたちを睨んでいるレイフォナー、先程まで気落ちしていた顔が真っ赤になっているアンジュを見て、だいたい察したようだ。


「まったく・・・換気しますよ」

「すみません!」

 アンジュは慌てて窓を開けた。


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