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王子に恋をした村娘  作者: 悠木菓子
◇2章◇

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第75話 お守り



「起こしちゃった?」

「なかなか眠れなくて・・・」

 アンジュはこの温もりを離すまいと、レイフォナーの背中に手を回した。

「ふふ。寂しかったのかな?」

「はい」

「だよね・・・えっ!?」


 レイフォナーはてっきり、真っ赤な顔をして「そんなことありません!」という返事を予想していただけに、不意打ちを食らってしまった。


 レイフォナーは体を離してアンジュの顔を覗き込んだ。

「酔ってる?」

「一滴も飲んでません!」

 そう否定する顔は真っ赤だが、確かにシラフだ。

「可愛い」

 レイフォナーは人差し指で、アンジュの頬を優しくつついた。

「なっ・・・!」


 恥ずかしくなったアンジュはレイフォナーに背を向け、小走りでその場を離れようとしたが手首を掴まれてしまった。


「逃さないよ、子猫ちゃん」


 甘えてきたと思ったら、逃げようとする。アンジュは本当に猫のような性格だな、とレイフォナーは楽しくなった。捕獲したアンジュを抱き上げてベッドに連行すると、からかわれたと思ってむくれながら縮こまってしまった。ずっと見ていても飽きない可愛さだが、レイフォナーはアンジュの機嫌を直すことにした。


「もっとはやく用意すべきだったと反省している。そうすれば既製品ではなく、アンジュをイメージしたデザインや素材を一から考えれたんだけど」

 そう言ってアンジュの右手を取ると、ポケットから取り出した指輪を中指にはめた。

「サイズぴったり・・・」

 以前贈られたワンピースも、王城で用意されていたドレスも採寸したかのように丁度だったのだ。

「見てればわかるよ。本当は脱走防止の魔法をかけた首輪を送りたかったんだけど、チェザライとサンラマゼルに反対されたから指輪にした」

 アンジュは思わず、ショール様は?と言いそうになってしまった。

「あれは本気で言ってたのですね・・・」

「うん」


 アンジュは、レイフォナーの瞳より濃い青色の宝石がはめ込まれたシルバーの指輪を色んな角度からじっくりと見た。


 一見普通の指輪のようだが、宝石にはレイフォナーの魔力が込められている。どんなに遠く離れた無人島だろうと、レイフォナーは魔力を通してこれを身に着けている者の居場所を簡単に把握できるそうだ。部屋に入ってきたときの疲れた顔は仕事だけではなく、指輪選びにも時間を割いて魔力を込めてくれたからなのだろう。


「嬉しい!離れていてもレイフォナー殿下が傍にいてくれているみたい。ありがとうございます!」

 アンジュは満面の笑みでお礼を言った。

「・・・やっと笑顔を向けてくれた。なんだか、嬉しすぎて・・・やばい」

 照れているレイフォナーは右手で口元を覆った。

 そんな姿は珍しく、アンジュは目を輝かせて見つめてしまった。

「あまり見ないで・・・」

 とお願いされたが、さらに覗き込む。

「仕返しです!あれ?その指輪・・・」


 レイフォナーは心を落ち着かせるために深呼吸をし、甲を上にして右手をアンジュに差し出した。中指にはアンジュの瞳に近い、茶色のような濃い赤のような宝石が付いたシルバーの指輪がはまっている。


「私の指輪にはアンジュの光の魔力を込めてくれる?」

「私、そんなのやったことなくて・・・」

「大丈夫。今のアンジュならできるよ。魔力を込めすぎると宝石が割れてしまうから気をつけて」


 アンジュは自信なさげにレイフォナーの右手を両手で包んだ。光の魔力を宝石に注ぎ込むイメージをすると両手が光り出し、魔力がゆっくりと宝石に吸い込まれてゆくのがわかった。


(この指輪がレイフォナー殿下のお守りになりますように・・・)



 魔力と願いを込め、しばらくするとこれ以上魔力が入らないと感じて両手を離した。

「ど、どうでしょうか?」

 二人は指輪を覗き込んだ。

「うん、よくできている」


 宝石はアンジュの魔力が満ちて黄金色へと変化しており、ヒビ一つ入っていない。だが時間が経過すると魔力が弱まってしまうため、定期的に補給する必要がある。


 丘でのクランツの言動は宣戦布告と見なし、レイフォナーは転移魔法を警戒して急いでこの指輪を用意した。ただこれは転移を防げるわけではなく、どこかに飛ばされた場合にすぐ居場所がわかるというだけのもの。それでも二人は、互いの魔力に守られているようで嬉しいのだ。


 するとレイフォナーはアンジュの左手を取り、薬指を撫でた。

「あ、あの・・・」

「はやくこの指に指輪を贈りたいな」


 この国は古くから、王族や貴族は結婚するときに揃いの指輪を用意して、互いに左の薬指につける風習がある。夫婦となった相手を生涯愛し、支え合うという誓いの証しだ。今では都市部の平民にも浸透しているが、アンジュは侍女たちに薦められた恋愛小説を読むまで知らなかった。


「それって・・・け、結婚指輪ですか?」

「うん」


 アンジュはどう反応していいかわからず返事に困ってしまった。レイフォナーを愛しているが、やはりまだ妃になる覚悟がないのだ。


「まあ、その前に婚約者候補問題を解決しないといけないんだけど。でもその間にアンジュを手懐けないとね」

「手な・・・え?」

「体に教え込もうかな」


 レイフォナーの美しい指に唇をなぞられ、熱を帯びた視線を向けられ、それだけで体は熱くなってしまった。キスされるのかな、と思ってしまうのは期待と願望だ。それなのにレイフォナーはなかなか次の行動に移さない。気付けば、自分から縋るように近寄っていた。


「どうしてほしい?」

「・・・いじわる、しないでください」


 真っ赤な顔で控えめに睨んでくるアンジュは不満をぶつけているつもりだろうが、レイフォナーにとってはただただ可愛いだけだ。


 だがちゃんと言葉にして求めてほしいため合格点はあげられないし、猫を手懐けるのは一筋縄では行かないことを承知している。じっくり愛を注いで手懐け、躾けることにしよう。

 アンジュの腰に手を回し、唇に軽く触れるだけのキスを繰り返すと、物足りないと言わんばかりにしがみついてくる。


「可愛い・・・口開けて」


 と言うと恥ずかしいのか、逆に唇をギュッと閉じてしまった。レイフォナーはそんな可愛い天邪鬼の唇を指で撫でると、力が抜けたように口が開いてゆく。


「いい子だね。ご褒美をあげる」


 アンジュの小さな口に唇を強く押し当てた。舌を入れるとビクッと体を強張らせたが、次第に甘い声が漏れ、もっと乱れた姿を見たいという欲望が湧き上がってくる。押し倒してナイトドレスの中に手を滑り込ますと、恍惚としていた表情のアンジュは我に返ってしまった。


「これ以上は駄目です!」

「どうして?」

「レイフォナー殿下がお疲れだからです!しっかり睡眠をとって体を休めましょう」

「アンジュと触れ合うとね、むしろ疲れが吹き飛ぶんだよ。もし朝になって寝不足で疲れていたらアンジュが治して」

「そ、そんな理由で光魔法を使ってはいけませんっ!!」


 形勢逆転したアンジュは跳ね除けたレイフォナーをベッドに寝かせた。


 決して嫌ではない。レイフォナーに触れてもらえるのは嬉しいし、気持ちいい。愛されていると実感でき、心が幸福感で満たされる。だが今日は色んなことがあったし、なんとなくそういう気分ではないのだ。


 アンジュは向かい合って横になった。

「私はどこにも行きません。安心してお休みください」

「ふふ。私のほうが躾けられているみたいだ」


 レイフォナーは、それも悪くないかな、と思って目を閉じた。


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