第7話 贈り物
レイフォナーはショールとチェザライと共に、ワッグラの村の橋を眺め、橋の造りや、渡っている人を観察している。
初めてこの村に来てから、半年近くが経っていた。
橋は以前大雨で崩れてしまい、レイフォナーが工事の手配をしていた。当初の計画より人材を増やしたため、予定より早く完成した、という報告を受けて確認にやって来たのだ。
しかし今回、村に来た一番の理由ーーーそれはアンジュに会うことである。
今日のために、ここ数日は必死に執務をこなして時間を作った。執務補佐には、いつもそのくらいやる気を見せてくださいよ、と言われてしまったが。
橋は美しい仕上がりで問題なく利用出来ているようなので、アンジュの家に向かうことにした。家の場所は知らないが、彼女の魔力を追えるため迷うことなく進んでいく。
「ここがアンジュの家か」
「随分こじんまりとした家だな」
「これだからお坊ちゃまは・・・村の家ってどこもこんな感じだよ!」
レイフォナーの部屋よりも小さい木造の家は、古そうだがきちんと手入れがされている。家の横の庭には数種類の野菜や花が植えられ、大きな木に果物が実っており、風に乗って爽やかな香りが流れてくる。
レイフォナーは大きく心呼吸をすると、自然と笑みがこぼれた。その香りは、周囲からの期待やしがらみを忘れさせてくれ、毎日やってもやっても終わらない執務の疲れを癒してくれるようだ。
ショールは両手で荷物を抱えており、チェザライがドアをノックする。
「ごめんください」
中から「はーい」と返事が聞こえた。
レイフォナーはアンジュに久しぶりに会えることが嬉しくて、どこか落ち着きがない。周りからは凛々しく完璧な王子だと目に映るだろうが、ショールとチェザライにはソワソワしているように見える。
ガチャリ、とドアが開いた。
アンジュは三人を見て驚いている。
「レイフォナー殿下!?」
「やあ、アンジュ。久しぶりですね」
「なぜ、ここに・・・」
「橋が完成したと報告があったので見に来ました。それと、ハンカチのお礼を届けに来たんです」
アンジュはレイフォナーの後ろに控えている二人を見る。
ショールとチェザライを紹介され、二人ににっこりと笑顔を向けられた。
中に入ってもらい、アンジュは三人にお茶を出した。
小さく質素な部屋のいつも食事をしている場所に、誰もが見惚れる美しい王子の姿はなんという違和感だろうか。レイフォナーは椅子に座っているが、荷物を持ったショールとチェザライは後ろで立ったままだ。
「ハンカチのお礼は何がいいか悩んだのですが、アンジュに似合いそうな服や髪飾りを選んでみました」
すると、ショールがテーブルの上に荷物を置いた。
大きな箱と小さな箱が二つずつある。
「こ、こんなにいただけません!」
「これでも減らしたのですよ。持ち帰っても使用する人がいないので、受け取ってもらえると嬉しいです。開けてみてください」
アンジュは恐る恐るラッピングのリボンをほどき、箱を開けていく。
中には、ピンクの生地に刺繍が施されたもの、赤と白の細かいチェック柄のワンピースが入っていた。都会の人にとっては普段着かもしれないが、アンジュにとっては普段着にするには勿体ないくらい上等な生地で、可愛いデザインだ。
(こんな上等な服を着て庭仕事なんてできないわ!)
おそらく、サイズはピッタリだと思われる。なぜサイズがわかったのかは・・・考えないことにした。
服とお揃いの髪飾りもあり、どちらにもキラキラと輝く宝石がはめ込まれていた。
レイフォナーはこれまで女性に贈り物をする際は、執務の補佐役にいくつか見繕わせてその中から選んでいた。
だが、アンジュへのこの贈り物は自ら用意したものだ。忙しい執務の合間を縫って商人を呼び、彼女に似合いそうな生地や宝石を選んでデザインにも関わった。本当は十着ほど送りたかったが、周りから『そんなに贈ったら引かれる』と止められてしまった。
そんな事情を知らないアンジュは、たった一枚のハンカチの礼に贅沢な物を贈られて目眩がしそうになる。
だが、都会のお洒落な娘たちが着ていそうなワンピースも髪飾りも可愛いくて、これをいらないという女の子はいないだろう。
「どれもすごく可愛いです!・・・でも私には、分不相応な物ばかりです」
「無理に着ろとは言いませんが、受け取ってください」
(結構です、なんて言ったら・・・じゃあ捨てます、って言われそうね)
「・・・では、ありがたく頂戴いたします。勿体なくて普段着にはできませんが、出かけるときに着てみます」
そう言って頭を下げると、レイフォナーはご満悦の表情だ。