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王子に恋をした村娘  作者: 悠木菓子
◇2章◇

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第65話 王宮へ



 アンジュたちは岩を元に戻し、集落を散歩させてもらっていると、オラゴネルの言う通り空が暗くなり風が出てきた。雨も降り出し、まるで落ち込んでいるアンジュの心が具現化したかのようだ。

 その日の夜は、オラゴネルの家で夕飯をご馳走になり、寝る場所と寝具も用意してくれた。川の字の真ん中で横になったアンジュは、今後について考えると不安でなかなか眠れなかった。


 もしクランツと戦闘になった場合、中途半端な光魔法だけで対抗できるのだろうか。光剣があれば勝てるとは限らないが、ここに来れば・・・と期待していただけにショックが大きい。ただでさえレイフォナーのことで心が不安定な状態なのだ。今はやるべきことがあるため踏ん張っているが、もし光剣を手にいれることができなかったら本当に寝込んでしまいそうだ。


 考えれば考えるほど悲観的思考に陥ってしまいそうで、アンジュはケットを頭まで被り、楽しいことを思い出して目をギュッと閉じた。




 翌朝。風と雨は止んでいたが、もう一波乱ありそうなどんよりとした空模様だ。アンジュたちは朝食をいただき、帰り支度をして外に出た。


「お世話になりました」

 アンジュはオラゴネルに頭を下げた。

「せっかく来てくれたのに、すまなかったな」

「いいえ、貴重なお話をたくさん聞けてよかったです。これから王宮に行くのですが、もし光剣を手に入れることができたら、私たちがお預かりしてもいいですか?」

「勿論だ。お前さんに必要なものだからな」

「ありがとうございます!」


 帰りは集落から直接飛び立つことにした。アンジュたちはキュリバトが作った火魔法の鳥に乗ると、鳥は翼を広げてゆっくりと浮上した。


「では失礼します」

「健闘を祈る」

「はい!」


 飛び立った三人を見上げながら、オラゴネルは呟く。

「アンジュよ、今度こそ確実にクランツを消し去ってくれ・・・」




 アンジュたちが王宮に向かっていると、進行方向の先に広大な黄土色の大地が見えてきた。オラゴネルの言っていた砂漠だ。別の場所にも砂漠があり、現在も少しずつ拡大しているという。


「ロネミーチェの森も枯れちゃうのかな?」

「あそこは大丈夫だろ」

「光魔法の始祖の末裔たちの森ですからね」




 王都の手前で火魔法の鳥から降り、徒歩で王宮へ向かうことにした。途中に露店通りがあり、見慣れない食べ物や民芸品に目を奪われながらも辿り着いた建物は、さらに目を引く造りだった。


「ここがバッジャキラ王宮です」

「なんか、可愛い・・・」

「タマネギみたいな屋根だな」


 メアソーグの王城は高さがあり重厚な塀に囲まれているが、この王宮は横に広く開放的で丸みを帯びた形の屋根が特徴的だ。王宮は柵で囲われ、正門の外側には槍を持った二人の門番が、柵の中には槍や剣を持った衛兵たちが等間隔で配置され、目を光らせている。


 門の前まで行くと、二人の門番が槍を向けてきた。

 イルがアンジュの腕を引っ張って自分の後ろに隠すようにすると、キュリバトが一歩前に出て、門番たちに左手首を見せた。手首には銀細工の腕輪がはまっており、五つの赤い宝石が輝いている。


「私はメアソーグ国家魔法士、キュリバト。書状は持ち合わせていないが、アンヘラウム国王陛下、もしくは側近の方にお目通り願いたい」

「何用で?」

「とある剣についてお話を伺いたい」

 門番が柵の中にいる衛兵に伝えると、その衛兵は王宮に向かって走り出した。

「しばし待て」

 

 ここにはダメ元で来たのだが、もしかしたら話を聞いてもらえるかもしれない。自分一人で来ていたなら、有無を言わさず追い返されただろうし、怪しい人物と思われて捕まっていたかもしれない。


「その腕輪はなんですか?」

「国家魔法士の証です」


 国によって細工模様は違うが、石の数は全世界共通で階級を表し、下級は一つ、中級は三つ、上級は五つ。火魔法士は赤、水魔法士は青、風魔法士は緑の宝石がはめ込まれている。世界で唯一の超級であるバラックも証を持っているが、それは腕輪ではなく誰も知らないないという。


 アンジュはキュリバトの腕輪に輝く五つの石を見つめている。

「綺麗・・・」

「ルビーですよ」

「ひえぇ!」

 恐れおののいていると、イルがからかって言う。

「お前は下級だから、石一つだな」

「風魔法士はエメラルドです」

「私は国家魔法士じゃないから、そもそも腕輪はもらえません!」



 そんな話をしていると、衛兵が戻ってきて門番に耳打ちしている。

 

 その門番がキュリバトに近づいて言い放つ。

「謁見の許可は下りなかった。帰れ」

「話だけでも聞いてくれませんか!?」

 アンジュは食い下がったが、門番は顔色一つ変えない。

「帰れ」



 その様子を自室の部屋から眺めていた人物がいた。それはレイフォナーの婚約者候補のラハリルだ。そこへ、ラハリルの兄・ザラハイムがやって来た。健康的な肌色に、黒い髪に黒い瞳。胸まである髪を、左の鎖骨のあたりで結っている。


「ラハリル、何を見ていた?」

「門の前にお客様が・・・でも追い返されたようです」

 静かにそう話す妹に、兄は心はモヤッとする。


 ラハリルはあるときから明るさが消えてしまった。もともと活発でよく笑顔を見せる子だったが、この数年は別人のように大人しくなってしまった。それでも王女として教育を真面目に受け、美しく聡明に育ち、どこに出しても恥ずかしくない自慢の妹だ。できることなら、そんな妹に昔のような笑顔を取り戻してやりたい。


「一度、腹を割って父上と話をしたらどうだ?」

 ラハリルは、目を伏せて微笑んだ。

「いいえ。私は国のために役立ちたいのです」

「俺から話をしようか?」

「ありがとう、お兄様。でも必要ありませんわ」




 国王に取り次いでもらえなかったアンジュたちは、王都の食堂に来ていた。来た道を戻っているとき、イルが「腹減った」と言ったので、昼食をとることにしたのだ。しかしアンジュは落ち込んでいて、食事が喉を通らない。


 なすすべがなかった。門前払いされ、光剣を手に入れることができなかった。一緒に来てくれたイルやキュリバトに申し訳ないし、資金を用意してくれたレイフォナーをがっかりさせてしまうだろう。


「はぁ・・・」

 イルはため息をついたアンジュの心情を察した。

「なんとかなるって。あ、うまっ!」


 イルはスパイスが効いた肉料理を頬張りながら言った。食事を囲むと遠慮してしまうと言っていたキュリバトも、自分たちに気を許してくれたのか、もくもくと食べている。


「今日はバッジャキラで一泊し、明日メアソーグに帰りましょう。私は王城に戻り次第、今回のことを報告しなければいけません。できればお二人にも同席していただきたいのですが」

「俺は構わないけど」

「アンジュさんはどうでしょうか?」


 それはつまり、レイフォナーと顔を合わせるということだ。気まずいにも程があるが、光剣を手に入れるためにはメアソーグ王家のレイフォナーの力が必要だ。光剣を必要としている自分が力を貸してほしいとお願いするのが筋というものだろう。


「わかりました。私も一緒に行きます」

 腹を括ったアンジュは、イルとキュリバトに負けじと食べ始めた。


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