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王子に恋をした村娘  作者: 悠木菓子
◇2章◇

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第60話 名付けの理由



 サンラマゼルに奮起を促され、なんとか執務を終えたレイフォナーはその日の夜、国王とバラックというメンバーで酒を酌み交わしていた。レイフォナーは上着を脱いだ楽な格好で、隣に座るバラックはいつもの魔法士のローブを纏っているが、向かいのソファの国王は寝衣姿で足を組み、随分リラックスしているようだ。


「久しぶりだな、バラックと飲むのは」

「三年ぶりですな」

「飲み比べをして私が負けたんだよねぇ。今でも覚えてるよ、翌日の二日酔いがひどかった」

「私は途中でお止めしましたぞ」

「バラックはいつもそんなに飲まないから、弱いと思っていたのだよ」


 国王は懐かしそうに笑い、バラックも珍しく笑みを浮かべて、そのときの思い出話に花を咲かせている。そんな二人の会話をレイフォナーは不思議そうに聞いていた。


 父は魔力をもっておらず、バラックが師匠というわけでもない。基本的に魔法学校で研究に打ち込んでいるバラックだが、政治面で意見を求められることもある。王城に呼ばれることもしばしばで、父からの信頼が厚いのは知っていた。


「お二人は以前から個人的なお付き合いがあったのですね」

「我が国が誇る大魔法士殿は博識で視野が広い。客観的に物事を見据え、良き道へと導く能力も評価している。教示願うためによく飲みに誘ったのだ」

「教示などでは・・・年寄りのただの蘊蓄(うんちく)です」

「蘊蓄を語るには知識が必要だ。バラックの頭の中には何千という書物の情報、長年の経験、そして優れた洞察力が備わっている。お前には何度も助けられてきたよ」

「ありがたく存じます」

 バラックは頭を下げ、レイフォナーは父が他人をこんなにも褒めるのは珍しいと、目を丸くした。

「ところでレイフォナーよ、三人で一体なんの話がしたいのだ?」


 プライベートでこの三人が集まるのは初めてで、父は息子が何か大事な話があるのだろうと勘付いているようだ。気になっていることがあり、臣下たちに聞かれたくないわけではないが、周りの目を気にしなくていい場のほうが話しやすいと思い、この酒の席を設けた。


「父上はなぜ私たちに、レイフォナー、クランツと名付けたのですか?」

「ふむ」

 国王はグラスを口に運び、ワインを飲んだ。

「お前はこう言いたいのだろう?二百年前の出来事を知っていた上でそう名付けたのか?と」

「仰るとおりです」

「私も二百年前の出来事は知らなかったさ」

「父上も?」


 子供の頃、メアソーグの歴史について学んだことがある。二百年前は平和な良き時代であったと記憶しているが、アンジュの封印やクランツの行ったことは貴重書室の光魔法書を目にするまで知らなかった。それとも学んだものの、忘れていたのだろうかとも思ったが、父も知らなかったとは意外だ。


「知らなかったのは自分だけ、とでも思ったか?」

「はい」

 国王はバラックに視線を向けた。

「二百年前のクランツのことは、ほとんど記録に残っておらんのです」


 かろうじて残っているのが、貴重書室の光魔法書と闇魔法書なのだという。二百年前の当時の国王は災いをもたらしていたクランツに手を焼いていた。曇天が続き、作物が育たず高騰して民の生活は苦しくなり、犯罪が増え、さらには疫病によって大勢が命を落とした。結果、レイフォナーの妃であるアンジュがクランツを封印して国は持ち直したが、クランツは国の汚点と見なされて王家から除籍され、歴史書にも名が残されることはなかった。


「二百年前のことはクランツが生まれたあと、バラックから聞いたんだよ」


 バラックは研究のために何十年も前に光魔法書を読んだことがあったそうだ。父に第二子が生まれてクランツと名付けられたことを知り、二百年前に同じ名前の王子たちがいたこと、その時代に何が起こったのかを父に報告したそうだ。


「二百年前の王子たちと同じ名になるとはなぁ・・・産まれたばかりのお前たちの顔を見て、直感的に名付けたのだ。王妃も良い名だと喜んでくれたのだが、熟考すべきだったか」

「どれだけ熟考なさっていたとしても、今の御名になっておったでしょう」

 そう言ったバラックは、国王とレイフォナーのグラスに酒を注いだ。


 バラックはそう思う理由を語らなかったが、おそらく彼自身も理論的に説明できないのだ。自分とクランツ、そしてアンジュは生まれた時点で、もしくは生まれる前からその名を与えられることが決まっていた。そう結論づけるしかないのだ。


 これ以上名付けについて話は膨らまないと思い、レイフォナーは話題を変えることにした。

「父上はアンジュの母親、アーメイアをご存知なのですか?」

 そう言うと、グラスを口に運ぼうとしていた国王の手が一瞬止まった。


 昼間、アンジュが光剣を得るためにバッジャキラに向かったことを報告したときも、アーメイアの名を出すとわずかに反応していたように感じた。


「・・・アーメイアは友人だ。私より王妃と仲が良かった」

「そうでしたか」


 酒が回っていれば、饒舌になって色々聞けるかもしれないと思っていたのだが、父はそれ以上アーメイアについて語らなかった。昔のことを思い出しているのだろうか、憂いの中にどこか微笑んでいるようにも見える複雑な表情に、今はこの話題を深堀りしてはいけない気がした。


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