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王子に恋をした村娘  作者: 悠木菓子
◇2章◇

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第58話 生い立ち



 自分は生まれてすぐ、王都に近い街の孤児院の前に捨てられていたそうだ。両親の顔も、きょうだいがいるのかも知らない。孤児院は貧しかったが、似たような境遇の仲間たちや、自分たちの世話をしてくれる優しいシスターとの生活は楽しかった。


 物心がついた頃にはすでに自分の体内に何かが存在していることを感じていたが、当時はそれが魔力だとはわからなかったし、魔力という言葉すら知らなかった。

 孤児院には定期的に貴族や魔法士たちが慰問に来ていた。十歳くらいのとき、火魔法士が子供たちに魔法を披露してくれて、見様見真似でやってみたところ手のひらから炎が出た。


「そのとき自分の体内の何かが魔力だと知ったのです」


 驚いた魔法士や、すごいと褒めてくれた仲間やシスターに勧められ、魔法学校に入学した。魔力量が他の生徒より多く魔法の才能もあり、在学中に中級魔法の試験に合格した。卒業前にバラックから研究室に来ないかと誘われて、そこで先輩たちの手伝いをしながら訓練を続け、十四歳で上級魔法の試験に合格して今に至る。


 自分に魔力があったおかげで、国家魔法士になれた。稼いだお金で孤児院に恩返しができている。建物は修繕され、ボロボロの服を着ている子供は一人もいない。食事は質素だがお腹をすかせた子はおらず、遊具や書物も充実した。


「私が孤児院にいた頃は食べる物が少なくて、自分より小さい子たちに分けていました。なので、こうやって食事を前にすると遠慮する癖が出てしまうのです」

 アンジュとイルは目頭を押さえている。

「キュリバトさん・・・なんて素晴らしい方なの!」

「あんた、苦労してきたんだな」


 キュリバトの無表情は、子供の頃にすでに身に付いていたのかもしれない。本当は、自分だってお腹いっぱい食べたかったはずだ。贅沢を言えない環境は我慢を強いられ、感情を押し殺す癖がついてしまったのだろうか。


「私は今、とても充実していて幸せなんですよ。気のいい仲間と仕事をして、充分すぎる給金をいただき、食事にも困っていません」

 穏やかな表情で話すキュリバトを、イルは残念そうに見た。

「そんなに出世したのに、今はこいつの護衛をさせられてるんだろ?勿体ねえな」

「な、なによ!」

「とんでもない!アンジュさんの護衛はレイフォナー殿下とバラック先生の推薦です。大変名誉なことなんですよ」

 とフォローしてくれたが、アンジュは気になっていたことを尋ねる。

「護衛の任務は継続中なんですか?」


 レイフォナーには二週間ほど前に別れを告げたはずなのに、いまだに護衛が付いているとすればなぜだろうか。もしかしたら護衛というより、勝手な行動をしていないか、ちゃんと光魔法の訓練をしているか監視しているのかもしれない。


 キュリバトは質問には答えず、アンジュから目を逸らした。

「・・・そろそろ行きましょうか。あとでお二人の子供時代の話も聞かせてください」

「あとどのくらいで着くんだ?」

 アンジュは地図を取り出して、現在地から目的地へと視線を移した。

「休憩をとりながらだと・・・夕方くらい?」

「途中で魔力切れにならないのか?」

「心配無用です」

「さすがです・・・」


 するとイルは、観光したりご当地料理を食べたいと言いだし、すっかり旅行気分だ。気持ちはわからなくもないが、自分たちの目的は光剣を手に入れることだ。それにキュリバトは仕事を休んで同行してくれてるのだ。できるだけ早くメアソーグに帰してあげなくてはいけない。


「バラック先生からは、何日かかってもいいから光剣を入手するよう言われています。時間には余裕がありますよ。せっかくバッジャキラに来たのですから、楽しむことも必要ですよ」

「そうそう。特にお前は気分転換が必要だ」


 そう言った二人の表情は、自分を気遣ってくれているように感じた。レイフォナーのもとを離れ、母の過去を知り、落ち込んでいるのは確かだ。そんな状態で光剣を手に入れようとしている自分の姿は、二人には無理をしているように映ったのかもしれない。


「そうだね・・・私、少し焦ってたのかも。楽しまなきゃね!でもイルは羽目を外さないように!」

「わかってるよ!」

「では参りましょう」


 キュリバトは再び大きな鳥を作り、三人はそれに乗って飛び立った。


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