第5話 対抗心?
アンジュとイルは王都に行くため、乗合馬車に揺られている。
時々こうして、二人で王都に行っているのだ。
今回の目的は薬草を売りに行くだけではなく、村人たちからの依頼もこなさなければいけない。若い者が王都に行くときには、遠い所まで通うのが厳しい高齢者に声をかけている。
アンジュはみんなからの依頼を書いたメモを見た。
「今回は七人ね」
「少ないほうじゃん。まあ、みんな旅費と小遣いくれたし、のんびり行こうぜ」
村人たちからは売ってきてほしい物を渡され大荷物になるため、一人では持てないのでイルを連れて行くのだ。
アンジュ一人なら風魔法を使って行くのだが、残念ながら二人一緒に飛ぶことは難しい。以前試してみたのだが、地面から一メートルほどしか浮かず、馬車くらいの速さしか出ず、魔力消費量も激しいため断念した。自分とある程度の荷物しか運べないのだとわかった。
夜は野宿したり宿に泊まったりして、乗合馬車と徒歩で数日かけて王都に到着した。
「王都はいつ来ても華やかだよなー」
「そうね。でも私は村のほうが好きだな」
「俺も。じゃあさっそく、みんなからの依頼を片付けていこうぜ」
いくつか店を回り、村人たちから渡された品を売っていく。売れた際には、店主に金額とサインを書いてもらう。誰の品がいくらで売れたのか、ごちゃ混ぜにならないためだ。
そして全員の品を売ることができた。
王都をブラブラ歩いていると、イルが宿を見つけた。建物の雰囲気が気に入ったのか、壁の看板に書いてある食事のメニューが気に入ったのか、ここに泊まろう、と言い出した。
しかしアンジュは即座に却下した。
「駄目よ、宿代高いんだから。中心部から離れた安い所に泊まりましょ」
アンジュはしっかり者だ。決してケチではない。旅費にはまだ余裕があるが、余ったお金は村人たちに返すため、できるだけ節約したいのだ。
「お前、いい嫁になるよ」
「お嫁にいく予定は、今のところないけどね」
イルは照れくさそうに言う。
「・・・俺がもらってやってもいいけど?」
アンジュは、何を言い出すんだ?という顔をした。
イルは弟のような存在で一人の男性として見たことがなく、イルもまた然り、と思っている。きっとからかわれているのだろう、と考えた。
「何で上から目線なのよ!年下のくせに生意気なんだから」
そう言って、イルの肩をバチンと叩いた。
「いてっ!お前がずっと一人だったら可哀想だと思ったんだよ」
「もう!余計なお世話よ!」
二人がじゃれ合っていると声をかけられた。
「アンジュ?」
振り向くと、白毛の馬に乗った金髪の男性と、栗毛の馬に乗ったオレンジ髪の男性、青毛の馬に乗った銀髪の男性が二人を見下ろしていた。
「レ、レイフォナー殿下!?」
イルは驚いている。橋の工事で視察に来ていたレイフォナーのことを覚えていたが、まさか第一王子だとは思っていなかったようだ。
「やっぱりアンジュだ」
そう言いながら、馬から降りた。
「久しぶりですね」
「はい・・・」
真っ白な軍服姿は以前村でも見たが、今日のレイフォナーはさらに白馬に乗ってきた。なんて美しく白が似合うのだろう、と惚れ惚れするが、イルとじゃれ合っている姿を見られたことを思い出し、恥ずかしくて思わず俯いた。
それだけでなく、胸がドキドキと鳴り始めた。
レイフォナーはソワソワしているアンジュを楽しそうに見たあと、驚いているイルに目を向ける。
「君は?」
「俺は将来アンジュと結婚するイルです」
「ちょっと、何言ってるのよ!違います、ただの幼馴染です!」
アンジュは慌てて訂正した。
若干声を荒げ、早口になったのは自分でもわかり、なぜだか誤解されたくないと思った。
「へえ、弟さんかと思った」
そう言われたイルはレイフォナーを睨むような目で見た。レイフォナーはそれを不敵な笑みで返したあと、アンジュに視線を移して笑顔で話し始める。
「アンジュ、いつとは言えませんがまた村に行きますから。そのときたくさん話をしましょう。では」
優雅に馬に跨ると、三人は去って行った。
「あいつ、なんかムカつくっ!」
「こら!あいつなんて言っちゃダメでしょ」