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王子に恋をした村娘  作者: 悠木菓子
◇1章◇

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第46話 訪問者



「よう、久しぶり」

「元気そうじゃん」

「お前、綺麗になったなぁ」


 村を歩いていると、行き交う人たちがアンジュに声をかけてきた。王族や護衛を連れているにもかかわらず、委縮する様子はない。レイフォナーは何度も村に来ており、村人たちはすっかり慣れたようだ。

 軽く立ち話をしたあと、アンジュは隣人のおばあさんの家に向かった。小さい頃から可愛がってくれているおばあさんは、アンジュにとって祖母のような存在だ。


「まあまあ!お帰り、アンジュ」

「ただいま、おばあさん。庭の手入れありがとう」

「構わないよ」


 おばあさんにお土産を渡し、家でお茶をごちそうになった。レイフォナーとおばあさんは、まるで孫と祖母に見えるくらい話に花を咲かせている。アンジュはそれがなんだか嬉しかった。


 


 久しぶりに我が家に入ると、思わず足を止めてしまった。

「狭い・・・」


 毎日、王城の広い部屋で過ごして見慣れたせいか、狭くて質素な自宅に驚いてしまう。だが、使い慣れた調理器具や家具を見ると、確かにここは自分が生まれ育った家なのだと実感する。


 まずは窓を開け、部屋を換気した。

 見渡すと、全体的にうっすらと埃が溜まっているように見える。前回は掃除をする時間がなかった。ハタキで埃を落とし、ほうきで掃き、濡れ雑巾で拭いていく。


 レイフォナーは掃除の邪魔にならないように部屋の隅で壁に背を預け、アンジュが働くさまを楽しそうに見つめている。チェザライも同様だが、ショールはあくびをしながら暇そうにしていた。突っ立って見ていただけのキュリバトは、手際のいいアンジュに声をかける。


「あの、私も何かお手伝いを・・・」

 天下の国家魔法士に、自分の家の掃除はさせられない。

「椅子に座って寛いでいてください。もう少しで終わりますから」

「ですが―――」

 と言いかけたとき、入口のドアをノックする音が聞こえた。

「はーい」

 アンジュはそう返事をして、ドアに向かう。


 ドアノブに手をかけ、ガチャリと音が鳴ったとき背筋が凍った。胸がドクンドクンと焦り始める。数センチ開けたドアを今すぐ閉めるべきだが、細かく震える手は動こうとしない。いや、この向こうにいる人物に会わなければいけないのだと、体がドアを閉めることを拒否しているのかもしれない。


 両手でドアノブを強く握りしめ、ゆっくり開けると、そこには一度だけ顔を合わせた人物が立っていた。


「クランツ、殿下・・・」

「やあ、アンジュ。ごきげんよう」

「クランツ!?」

「兄上、お久しぶりです」


 黒いマントを纏っているクランツは、ゆっくりと家の中に歩みを進める。笑顔を見せているが、逆にそれが不気味な雰囲気を放っている。アンジュは恐怖で後ずさってしまった。


「お前、今までどこにいた!?」

「さあ」


 クランツはそう言うと、手のひらから黒い湯気のようなようなものを出した。チェザライとキュリバトはクランツに向けて手を伸ばす。拘束するため魔法を発動しようとしたが、それより先に黒い湯気が一気に広がり、アンジュ以外の四人を包み込んだ。それは四つの大きな黒い繭のようだ。


「みなさん!」

「お前たちはそこで大人しくしてろ」

 

 そう言い放ったクランツは、声も表情も冷酷だった。以前会ったときの人懐こく愛らしい雰囲気や、先程の笑顔は見間違いだったのかと思うほどだ。


「大丈夫。殺してないよ」

 アンジュにかけた声は穏やかだった。

「アンジュも座って?」


 クランツはそういいながら椅子に座ったが、アンジュは恐怖で足が動かない。

 テーブルに肘を置いて、足を組んでいる姿は余裕に満ちている。少しでも気を抜くと、クランツに隙をつかれて支配されてしまいそうだ。


「イルは元気そうだね。光魔法も発動できたようで、おめでとう」

「なぜ、そのことを・・・」

「ふふ」

「魔法士のみなさんはクランツ殿下を捜しています。こんな所でのんびりしていると、魔力追跡に引っかかりますよ」

「追跡なんて無駄。僕を捕らえることはできないよ」

「魔力感知阻害ですか?」

「へえ、よくご存知で。闇魔法は魔力を隠せるんだよ。魔法を発動するときはさすがに隠せないけどね」


 バラックの予想通りだ。

 他にも聞きたいことがたくさんある。何をしに来たのか、なぜイルやユアーミラを操ったのか、あなたは生まれ変わりなのか封印が解けたのか、そもそもの目的は自分への復讐なのか。他にも謎が多い闇魔法のことや、二百年前の出来事も。


 あれこれ考えていると、先にクランツが口を開いた。

「震えてるね。僕が怖い?安心して。今日は忠告しに来ただけだから」


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