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王子に恋をした村娘  作者: 悠木菓子
◇1章◇

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第36話 気がかりと甘やかし



 アンジュはキュリバトと王城の庭をブラブラと散歩している。


「気持ちいい〜」

「お散歩日和ですね」

「付き合わせて、すみません」

「遠慮は無用です」


 キュリバトとは毎日顔を合わせている。レイフォナーより一緒にいる時間が長い。魔法学校では訓練で指導してくれて、王城では護衛に当たってくれている。


 出会ってまだまだ日は浅いが、距離は縮んできたように思う。物腰が柔らかく、同い年でありながら上級魔法士で頼りになる人物だ。そんなキュリバトは丁寧な言葉遣いに、優しい喋り方と雰囲気を放っているが、常に無表情だ。


 それにしても、侍女たちに整えてもらった格好で、快晴のもと慣れないながらも日傘を差しつつ、そよ風に乗って香る花の匂いに包まれるこの時間は、ただの散歩なのに贅沢極まりない。魔法訓練の疲れも吹き飛ぶようだ。


 歩いていると、中年男性の庭師が花の手入れをしていた。土いじりが好きなアンジュはそれを羨ましそうに眺める。


 いつか自分にもやらせてもらえないだろうか。だが、素人の自分が手を加えたことで、歪な出来になってしまったら大惨事だ。やめておこう。それにレイフォナーが用意してくれた高級なワンピースを汚すわけにはいかないし、洗濯をしてくれる使用人にも手間を掛けさせられない。


「お疲れさまです」と庭師に挨拶してみた。


 植物や庭造りの専門家にたくさん聞いてみたいことがあるが、時間をとらせるのも迷惑かと思い「薔薇を育てるのは大変ですか?」と一つだけ質問をした。王城の美しい薔薇たちに興味をもったのだが、これまで薔薇を育てた経験がないのだ。


 庭師は質問が嬉しかったのか、「品種によって育て方が異なります」と言って、楽しそうに事細かく丁寧に説明してくれた。その話を聞いて気になったことを質問し、説明を受け、また質問する。気づけば、結構な時間を使わせてしまっていた。


「とても勉強になりました。ありがとうございました」

 アンジュは深くお辞儀をした。

「僕のほうこそ、楽しい時間をありがとうございました。気になることがあれば、いつでもどうぞ」

 そう言った薔薇が大好きな庭師は、ご満悦の表情だ。



 東屋に到着し、椅子に座って咲き誇る花を眺める。

「なんて穏やかなの・・・」

「アンジュさんは怖くないのですか?明日の帰省」

「怖いですけど、どこにいても危険であることに変わりないですから」


 そこへ、レイフォナーがショール、チェザライと共にやって来た。侍女たちも連れている。


 レイフォナーは右手を胸に当て、軽く頭を下げた。

「アンジュ姫、本日もなんと清麗高雅なのでしょう。不肖ながら、ティータイムにお誘いすることをお許しください」

 そう言われたアンジュは一瞬ポカンとしたが、ノッてみることにした。

「・・・まあ、私をお誘いいただけるの?」

「我が双眼に映り恋い焦がれるのは、いつもあなた様だけですから」

「嬉しいわ、レイフォナー様。どうぞ、おかけになって」


 レイフォナーは笑いながら椅子に座った。ショールとチェザライは、白けた顔をしている。


 レイフォナーがなぜこんな小芝居を打ってきたのかわからないが、なんとか切り返せたように思う。恋愛小説ばかり用意し、強制的に読ませる侍女たちのおかげだ。


「お仕事はよろしいのですか?」

「うん。サンラマゼルに休憩してこいと言われた」

「レイフォナー殿下はお芝居がお上手ですね」

「ふふ、アンジュも上手だったよ。でもね、さっきのは芝居のようでそうじゃない」

「??」


 どういう意味なのか聞きたかったが、用意された紅茶やお菓子に目がいってしまい、タイミングを失ってしまった。


 執務に追われているレイフォナーとゆっくり過ごせる時間は多くない。最近は朝起きると、すでにレイフォナーの姿がなかったり、食事も別だったり、先に寝るよう言われたりとすれ違ってばかりだ。自分の帰省に同行するために仕事を前倒しして、時間を作ろうと無理をしているのだ。



「この数日、バラック先生から追加の報告ねえよなー」

「明日、本当に行くの?」


 ショールとチェザライは、アンジュの帰省は絶対中止になると思っていた。魔法士たちは決行派、中止派にわかれていたが、最終的に決断を下したレイフォナーは、アンジュの意見に左右されたようだ。


 アンジュは欲がない。いつも遠慮、というか身分を弁えてのことだろうが、あれがしたいこれがほしい、などとまったく言わない。そんなアンジュが、バラックの知らせを聞いても村に行きたいと訴えてきたのだ。


「だって、アンジュにおねだりされたんだぞ!これを無下にしたら、私は死んでも死にきれない!」

「だって、言うな!子供か!」

「レイくん、チョロすぎ〜。あと、お願いだから死なないでね」

「アンジュを囮にしているようで少し心苦しいが」

「すみません、私が我儘を言ったばかりに・・・」

「この程度のこと、我儘とは言わないよ。私にとって、アンジュの望みを叶えることは悦びなんだ」


 アンジュの頬は赤くなって、俯いた。

「あ、甘やかさないでください」

「もっともっと甘やかしたいな」


 甘やかして、自分がいないと生きていけないのだと、依存させたいくらいだ。

 それに、王城では慣れない生活を強いて、行動もかなり制限している。村でのびのびと生活してきたアンジュは窮屈に感じているはず。珍しく自身の意見を主張してきたのだ。思いを汲んでやりたいと思うのは至極当然のことだ。


「おい、甘ったるい空気を作るな」

「また僻む〜」


 それまで黙っていたキュリバトが話を戻す。

「帰省は考え直されたほうがよろしいのでは?」

「いや。何か起こるかもしれないし、起こらないかもしれない。私たちは万難を排してアンジュを守護するのみだ」

「みなさん、よろしくお願いします!」

 アンジュは深々と頭を下げた。


 もともと帰省は、気分転換をしに行くつもりだった。村のみんなに会って、心配かけたことを直接謝って、家の庭の様子を見るだけ。それなのに今は大事になってしまっていることが申し訳ない。普段は守られる立場のレイフォナーが、自分を守るとまで言ってるくらいだ。


 明日は目的を果たしたら、長居せず王城に戻ることにしようと決めた。


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