第33話 光魔法書
翌日、アンジュは魔法学校の教室で講義を受けている。
一対一で教えてくれるのは、王城でアンジュを護衛することになったキュリバトという上級火魔法士だ。バラックの研究室で働いており、昨日の魔力調査で聞き取りをした人物で、その後部屋で護衛に付いてくれていた。
すらりと高い身長と茶色い髪のショートカットは、中性的な雰囲気を醸し出している。
講義内容は魔法の基礎知識や光と闇についてだった。
といっても、魔法は解明されていない部分が多い。いつから存在しているのか、なぜ魔力を有する者とそうでない者が現れるのか、なぜ五属性に分かれているのか。いまだ謎に包まれている。
だが、魔力を有する者だけが魔法を使えるということだけは確かだ。それ故、魔力は自然や神から与えられた恵物であり、魔法は奇跡と捉えられている。
光魔法とは、生物の外傷を治し、人々の心を癒し、その使い手が在世した時代は豊かで平和な世だったという。
対して闇魔法は、生物への呪詛、意識操作、転移の発動など悪事に使われることが多く、禁忌魔法とされていた。
これらの魔法を使える者が約二百年前を最後に途絶えている原因も不明だが、アンジュを転移させた者が現れ、アンジュ自身も光の魔力を覚醒させたことで、魔法研究棟は慌てふためいている状況だ。
闇魔法と対等に対峙できるのは、光魔法だけ。問題が起こったときのために、アンジュはなんとしてでも光魔法を習得しなければならない。
アンジュは城に戻り、執務室でレイフォナーたちに魔法学校でのことを報告した。
「光魔法なんて使いこなせる気がしません・・・」
「誰だって簡単には習得出来ないよ」
「まだ初日だろ?」
「一般の生徒は一年間訓練するんだよ?」
「焦ることはありません」
みんなはそう言ってくれたが、アンジュはうなだれている。
講義のあとはキュリバトの指導を受けながら、風魔法の訓練をしたのだ。簡単な魔法しか使えない今のアンジュに階級をつけるとすれば、かろうじて下級であり、まずは基礎をしっかり身に付けるところから始めた。
その後バラックも加わり、目醒めた光の魔力を認識する訓練をした。だが、助言をもらいながら繰り返しやってみても、まったく認識できなかったことに気を落としているのだ。
「そういえば、バラック先生に貴重書室にある光魔法書を読むよう言われたな」
「それ、私も言われました!」
「行ってみようぜ」
「僕、読んでみたかったんだよね〜」
「私は大量の書類を整理しますので、あとで教えてください」
貴重書室は国王の許可を得ないと入ることができない。レイフォナーは国王に、光と闇魔法について調べたいと伝えると、すんなり許可が下りた。
王城にある図書室の奥に、貴重書室への扉がある。
司書が扉の鍵を開けて、四人を魔法書の棚に案内する。貴重書室は図書室よりも狭いが、古びた書物が丁寧に棚に納められていた。
司書が足を止め、棚から二冊の書物を取り出す。
「ごゆっくりお読みください」と言ってレイフォナーに渡し、図書室に戻って行った。
一冊は光魔法書で、薄茶色の表紙で装本されており重厚感がある。もともとは白か黄色だったのか、変色しているようだ。もう一冊は闇魔法書で表紙は黒く、さほど厚みはないがどちらも時代がかっている。
四人はソファに座り、アンジュとレイフォナーは光魔法書を、ショールとチェザライは闇魔法書に目を通すことにした。
アンジュたちは読み進めていくと、功績を残した光魔法士の肖像画や、その人物の経歴などが書かれた頁になった。村娘が光の魔力に目醒めたことは何かの間違いに思ってしまうほど、圧倒的に貴族出身の女性が多い。
そして、とある人物の頁を開いたときアンジュは思わず叫んでしまった。
「な、何これ!?」
驚いたショールとチェザライは、光魔法書に目を落とす。
「まじで!?」
「わあ、そっくり!」
「この肖像画は・・・アンジュ!?」