第31話 目醒めた魔力
「お前、そのだらしない顔やめろ」
ショールはレイフォナーを冷ややかな目で見た。
アンジュと一緒に寝て、一緒に起きて、今一緒に過ごせていることに幸せを感じると、どうしても顔がニヤけてしまう。
「すまない」
「仕事が山積みなのに、お前は楽しそうでいいよなー」
「ショーくん、僻まないの」
アンジュとレイフォナー、ショール、チェザライの四人は、王都にある魔法学校に来ていた。
広い敷地内には、いくつかの棟がある。魔法を勉強している生徒の訓練棟、魔法士たちの研究棟、遠方からやってきた生徒の寄宿棟だ。
四人は研究棟に向かい、最上階の奥の研究室の前にやって来た。
「うわ、懐かしー!この部屋でよく怒られたよなー」
「それ、ショーくんだけね」
部屋に入ると中は広く、中央には何も置かれていない。右側には壁に沿って机が並んでおり、左側にはベッドのような台と書棚。世界地図やメモ書きされた紙が壁に何十枚も貼られている。
正面には、白いローブを纏った魔法士が五名、一列に並んで頭を下げていた。
レイフォナーは、杖を持っている真ん中の人物に声をかけた。
「バラック先生」
「レイフォナー殿下。本日はご多忙の中、ご足労いただき感謝申し上げます」
「よしてください、そんな挨拶」
白髪で長髪のバラックは頭を上げ、かつての教え子たちに目を向けた。
「お前たち三人が揃っておると、昔を思い出すのう」
バラックは六十歳を超えており、この魔法学校の責任者だ。現在は学校に勤めている魔法士たちの指導や魔法の研究をしているが、かつては教鞭をとっていた。レイフォナー、ショール、チェザライが子供の頃学校に通っていたときの師にあたる。
魔力というのは通常、一人一属性しか持ち合わせない。
しかしバラックは火・水・風全ての魔力を有する世界でただ一人の魔法士だ。三属性の魔法を組み合わせ、あらゆる魔法を使うことができる。
バラックと他四名は、アンジュが行方不明になったあと、ワッグラ村の森の調査のため招集したメンバーだ。
レイフォナーは魔法士たちにアンジュを紹介し、改めてこれまでの経緯を説明した。
バラックはアンジュを見たあと、レイフォナーを横目で見る。
「純粋そうな娘さんじゃ。お前、どうやって騙した?」
「騙してませんが」
「・・・レイフォナーよ、貴重書室の光魔法書を読んだことはあるか?」
「ありません」
「読むといい。いや、読まねばならん。なるべく早くな」
「・・・はい」
なぜバラックは突然、光魔法書の話をしたのだろうか。だが光魔法と闇魔法について最低限の知識しかない自分は、確かに書を読んで勉強しなければいけない。
そしてアンジュの魔力調査が始まった。まずは魔法士による聞き取りだ。
これまでどのように魔法を勉強してきたのか、どのような魔法が使えるのか、魔法を使った際の魔力の減り具合など、いくつも質問を投げかけている。
そのあとアンジュは検査台で仰向けになった。
アンジュに向けたバラックの手のひらは、白く光りだす。光はアンジュの全身を包み込み、魔力解析が始まった。
魔力や魔法には色がある。火は赤、水は青、風は緑。だが白い光を生み出す魔法は、三属性の魔力を有するバラックだけだ。
「何度見ても美しいな、先生の魔法は」
「だなー。でもお前の魔法も緑と白だよな」
そう言ったショールは、チェザライを見た。
「ふふん。僕、優秀なんだよ~」
バラックの調査は五分ほどで終わった。
「アンジュ嬢は、眠っておった魔力が覚醒したようじゃ」
調査の結果、魔力自体は全回復していた。魔力が半分しか回復していないと感じるのは、もう半分の魔力が別の魔法属性に変わったことに、本人が気付いていなかったからだ。魔力全体のうち半分は風で、もう半分は火でも水でもなかった。
アンジュの内にわずかに存在していた魔力が闇魔法と接触したことで目醒め、増大したというのがバラックの見解だ。
「火でも水でもない・・・」
「十中八九、光じゃ。魔力の色がまだぼやけとるがな」
全員から視線を浴びているアンジュは、魔力が変化したことに気付かなかったことが恥ずかしく、思わず俯いてしまった。
(私に光の魔力が?ほんとかな・・・)
アンジュはしばらく王城に滞在することになり、明日から魔法学校に通うことになった。魔法について学び、覚醒した魔力で魔法を発動させる訓練を始めるのだ。
魔法学校に通おうかと考えていたアンジュにとって、またとない機会になった。




