第3話 王子様!?
アンジュが王都で酔っぱらいに絡まれてから二か月が経った。
いつものように森へ薬草採りに向かうアンジュは、その途中の川で人だかりを目にした。どうやら村人たちが、軍服や魔法士のローブを身につけた人たちを見るために集まったようだ。
近くに行ってみると、隣人のおばあさんに会った。
「こんにちは。何かあったのですか?」
「先月の大雨で橋が崩れただろう?王都の役人たちが視察に来てるんだよ。村人だけでは直せないからねぇ」
それは隣の町へと続く橋で、馬車同士がすれ違えるほど大きな橋だったが、老朽化していたこともあり今は跡形もない。村の予算だけでは直せないため、村長が国に工事の依頼を出したのだ。
アンジュも役人たちの様子を覗いてみる。すると、その中に見覚えのある金髪の男性がなにやら指示を出している。
(あの人、王都で助けてくれた人だわ!)
太陽の光を浴びてキラキラと輝く金髪と、この世の男性で一番美しいであろう容貌を忘れるわけがない。
じーっと見すぎていたせいか、アンジュの視線に気づいたようで目が合った。金髪の男性は一瞬驚いた顔を見せたがすぐに嬉しそうな表情を浮かべ、側にいたオレンジ髪と銀髪の男性に、少し待ってて、と言ってアンジュに向かって歩き出した。
「以前、王都でお会いしましたよね?あの後、変な輩に絡まれなかったですか?」
アンジュの目の前にやって来てそう言った。
はっきり言って、アンジュは平凡な顔立ちで印象に残るような容姿はしていない。それなのに二か月も前に会ったことを覚えてくれていた。
「はい。その節は、ありがとうございました。私のこと覚えてくださっていたのですね」
「美しい女性のことは忘れません」
と微笑んで言われ、アンジュは頬を赤く染めた。
もう一度言うが、アンジュは平凡な顔立ちだ。
(硬派な方かと思っていたけど、意外と軟派なのかしら。それともこれが普通なの?)
「お、お世辞は結構です・・・」
美しいと言われることに慣れていないため、なんと言って返せばいいのかわからない。それに、この男性の美しい顔に見つめられるとやはりドキドキしてしまって、思わず俯いてしまった。
「ふふ、可愛いお方だ」
アンジュはいたたまれなくなり、話題を変えることにした。
今日の金髪の男性は平民服ではない。金色のボタンがあしらわれ、詰襟や袖口に金色のラインが入った真っ白な軍服にマントを身に着けている。
「あの、あなたは騎士様なのですか?王都でお会いしたときは、平民のような格好だったと思うのですが」
「ああ、失礼しました。自己紹介がまだでしたね。私はレイフォナー・ポルトナルド・メアソーグと申します」
アンジュは目が点になった。
「レイ・・・メア!?」
その名を知らないわけがない。なぜならその名は、この国の第一王子だからだ。
「レ、レイフォナー殿下!?」
「はい。王城での執務はなにかと窮屈で。気分転換に、街へお忍びで遊びに行ったり、こうやって地方に足を運んでいるのです」
これまで不敬に当たるような言動をとっていなかったかと、アンジュは不安になった。
レイフォナーはそれを察したようだ。
「大丈夫ですよ。今まで通り、普通に接してください」