第28話 対面
美しく着飾ったアンジュを見て、目を見開いている。
(やっぱり似合ってないよね!?)
レイフォナーは、俯いているアンジュの顎をクイッと持ち上げた。
「とても綺麗だよ、アンジュ。君は着飾らなくても綺麗だけどね」
「ありがとう、ございます・・・」
「それに、すごく魅惑的だ」
レイフォナーは、頬を真っ赤にしているアンジュの周りをゆっくりと歩き始めた。しっとりと潤った白い肌、細い腕と腰に、艶めかしいうなじと背中。全方向から満遍なく堪能し、一周して大きく頷いた。
「完璧だ」
そう言って、侍女たちに視線を送った。
そして、アンジュの首元に手を伸ばして優しく撫でた。ビクッと反応したアンジュにはお構いなしに、その指はゆっくりと滑り落ち、鎖骨をなぞった。
(綺麗って褒められて嬉しいけど・・・恥ずかしい!ど、どうしよう!)
胸元に視線を移したレイフォナーは、ゴクンと喉を鳴らした。鎖骨を撫でている指が、それより下に移らないよう我慢だ。だが、妖艶な体を晒しながら恥ずかしがっている表情と、ほのかに香る薔薇の匂いは欲情を煽り立てる。キスをして、抱きしめて、そして・・・と、妄想世界に浸った。
「あ、あのっ!くすぐったいです!!」
真っ赤な顔で、大声で訴えたアンジュのおかげで、レイフォナーは現実に引き戻された。
「怒った顔も可愛い・・・」
「怒っているのではなく、恥ずかしいのです!」
「ふふ、ごめんね」
そんな二人を羨ましそうに見ていたショールが口を挟む。
「はいはーい、そこまで。お前、仕事がすげー溜まってるんだからな」
「はあ、執務に戻らなければ。アンジュ、一人にしてすまないが、ディナーは一緒に過ごそう」
(お仕事が溜まってるのは私を捜したり、助けに来てくれたからだよね・・・)
レイフォナーに部屋でのんびり過ごすよう言われたが、侍女や護衛がいるため落ち着かない。部屋はだだっ広いのに、窮屈に感じてしまう。
手持ち無沙汰なため、近くにいた侍女に本が読みたいと言って、何冊か見繕ってきてもらった。ワッグラ村には学校はないが、村人はみんな文字が読める。街へ行くこともあるため、子供たちは親から教えてもらうのだ。
渡された本は、町娘と貴族子息の身分差の恋愛小説で、王都で大人気なのだという。侍女がこれを選択した理由は、自分とレイフォナーの関係が小説の内容と重なって見えているのだろうか。自分が恋愛初心者だとバレバレで、勉強してくだいと言われている気がしてならない。
昨夜はあまり寝れず眠いはずなのに、夢中で読んでしまった。
すると、レイフォナーがやって来た。外はいつの間にか暗くなっており、ディナーの時間になった。
部屋には普段お目にかかれない豪華な料理が運ばれ、全くわからないマナーで困惑しているアンジュに、レイフォナーは丁寧に教えていく。
メインは牛肉のステーキだ。とろみのあるソースがかかっている。
アンジュは高級そうなナイフをステーキに当ててみた。力を入れてないのにもかかわらず簡単に切れた。肉が柔らかいのか、ナイフの切れ味がよいのか。パクっと食べてみると、肉は柔らかく、ソースは果物が使われているのか甘みがある。
「どう?」
「とっても美味しいです!」
「よかった。いっぱい食べて」
普段、村ではステーキを食べることはない。高級だからだ。王都の食堂や宿屋で時々食べることはあるが、こんなに美味しいステーキは初めてだ。
「明日一緒に魔法学校に行こう。私の師に、アンジュの回復しない魔力を調べてもらおう」
「わかりました」
会話をしながら料理を堪能し、食事が終わるとレイフォナーは再び執務室に戻っていった。
しばらくして、部屋に一人の少年がやってきた。
「久し・・・じゃなくて、君が兄上が連れてきた客人か。はじめまして、僕は第二王子のクランツだよ」
「アンジュと申します」
「君も兄上の婚約者候補なの?」
アンジュは慌てて訂正する。
「違います!私はただ数日お世話になるだけで、レイフォナー殿下とはそういう関係ではありません!」
「兄上は君のことかなり気に入ってるようだけど」
「いえ、友人とでもいいますか・・・私なんかがおこがましいですが」
「ふうん?まあ、いいや。よろしくね」
「お世話になります。よろしくお願いします」
またね、と言ってクランツは部屋を後にした。
自分が婚約者候補だなんて、万が一にもない。明日の魔力調査のため、客人として慎ましく滞在させてもらおう。
自室に戻ったクランツは、人払いをした。腕を組み、若干苛立っているような表情を浮かべている。
「アンジュ、帰ってきたか。転移は失敗したな・・・ああそうだ、ユアーミラにも教えてあげよう」
クランツは手のひらを床に向けた。
すると足元に影のようなものが現れ、クランツは影に吸い込まれるようにして姿を消した。




