第23話 再会
レイフォナーは、ショール、チェザライと共に龍に乗っている。
龍から飛び降りたレイフォナーは、アンジュを力強く抱きしめた。
「アンジュ、無事でよかった!!遅くなってすまない!」
自分を抱きしめる温もりは幻覚ではなく、本物だ。レイフォナーが助けに来てくれた。島に来てから弱音を吐かず頑張っていたが、独りは心細かった。会いたいと思っていたところに現れてくれた。願いが叶い、滝のように涙が流れる。
声を上げて泣いているアンジュの頭を、レイフォナーは優しく撫でた。
「よく頑張ったな。もう大丈夫だ」
無事に再会を果たした二人を微笑んで見ていたショールとチェザライが口を開く。
「そのー、お二人さん。邪魔をして悪いんだけど・・・」
「アンジュちゃん、とりあえず服を着ようね」
「え、あ・・・ひゃああーーー!!」
全裸であることを忘れていたアンジュは真っ赤になって、森中に響く声で叫んでしまった。
水魔法で作った鳥を放ち、アンジュが無人島にいると突き止めたレイフォナーたちは、食料や毛布などを持ってきていた。アンジュは久しぶりのパンや肉を、一口ずつ噛みしめて食べた。
レイフォナーは、アンジュの魔力を突き止めてから今日まで、なぜ彼女が無人島に留まっているのか不思議に思っていた。
「魔力が半分しか回復していないのです」
それを聞いて納得した。だが・・・。
「回復しない理由・・・気になるな」
四人は小屋の近くで火を囲み、今回のことについて情報を共有し始めた。
アンジュが行方不明になってから、二週間以上が経っていた。
この島は数十年ほど前に無人島になり、メアソーグがある中央大陸の先、東に位置する。メアソーグは大陸の西寄りにあり、気が遠くなるほどの距離がある。
アンジュはワッグラ村でユアーミラとカラスに会ったこと、彼女の異様な姿、足元に現れた影に体を飲まれてこの島に着いたこと、島での生活を話した。
ここでの生活を聞いた三人は、苦い顔をしている。
「本当によく頑張ったな」
「アンジュちゃん、すげーわ」
「鋼の精神力・・・」
「村の女はたくましいのです」
先ほど、わんわん泣きじゃくっていたくせに強がってみせた。
ワッグラ村に派遣した魔法士の調査結果によると、森に残っていたもう一つの魔力は、火・水・風以外のものだった。
アンジュが影に飲まれ無人島に着いたということは、それは転移魔法を使われたに他ならない。転移魔法は闇魔法だ。約二百年前に途絶えた闇魔法だが、それを使える者が現れたのだ。
「ユアーミラ皇女は、カラスの指示に従っていたように見えました」
「操られていたのかもな」
「皇女自身、闇の魔力をもってるかもしれねえぞ」
「どっちにしても、これから大変なことになるよ」
魔法を勉強したことがないアンジュは、疑問に思う。
「操る?」
「闇魔法は生物を意のままに操って動かす、呪いをかける、転移魔法の発動など、忌み嫌われていた魔法だったんだよ」
なんて恐ろしい魔法なのだろう。そんな魔法を向けられ、生き延びた自分は運が良かったのだろうか。
「転移魔法で飛ばされる直前に、風魔法で抵抗したのは正解だったな。そのおかげで転移先が狂ったのだろう」
「何もしなかったら、この世界から消えてただろうな」
「追跡不可能、救出不可能だよ」
「ひえぇぇ!」
(あのとき咄嗟に魔法を出した私、えらいわ!)
アンジュは心の中で、自分を褒めてあげた。そして、魔法を使えることに感謝した。
魔法は無人島に来てから何度も役に立ったが、もし魔法学校に入学して訓練を積んでいたら、もっと楽なサバイバル生活だったのだろうか。
レイフォナーはアンジュの魔力追跡のため、魔法で作った鳥をひたすら飛ばし続けた。魔力が空に近づいては、ショールや魔法学校の水魔法士たちから魔力を分けてもらい、休むことなく捜索。そして六日目に、無人島でアンジュの魔力を感知した。レイフォナーとショールは酷使した魔力の全回復に二日を要し、その後チェザライも加わってメアソーグから無人島まで三日で到着した。
本来は三日でやって来れる距離ではく、相当無理をしたのだ。そのため三人とも魔力がかなり減っており、一晩島に泊まり、明日四人で中央大陸に向かうことになった。
食事を済ませ、小屋の床に毛布をひき、四人はその上に寝そべった。
レイフォナーはアンジュを抱き寄せる。
「君が行方不明と聞いて、生きた心地がしなかった。無事でいてくれてありがとう」
「・・・はい」
毎日一人ぼっちで、堅くて冷たい床で寝ていたアンジュは、レイフォナーの温かさに身を委ねて眠った。