第20話 追跡②
レイフォナーは三人に、以前アンジュの家の屋根に火魔法で作られた蛇がいたことを話した。蛇を放った人物と、今回アンジュに接触した人物は同一、もしくは関係者だと予想している。
異変に気付いていたのに、放置してしまった。あのとき手を打っていれば、このような事態は避けられたかもしれない。やはりチェザライにアンジュを護衛をさせるべきだったのだ。とめどなく後悔が押し寄せる。
「蛇に監視させていたのだろう」
「火魔法士ってどのくらいいるんだ?」
「えーっと、国内には三十人くらいかな。でも他国の火魔法士の人数は、わかんない」
「世界中の火魔法士を聴取するおつもりですか?蛇を作れる火魔法使いだっているかもしれませんよ」
犯人が判明しなければそうせざるを得ないだろうが、とりあえず犯人捜しは魔法学校の魔法士たちに任せる。自分はアンジュを見つけることに専念したい。連れ去られたにせよ、転移魔法を使われたにせよ、まずはアンジュの魔力を捜して居場所を突き止めることが最優先だ。
「いや、私はこれからアンジュを捜しに行く」
「お前、何言ってんだ!」「ダメだよ!」「許可できません!」
三人は同時に叫んだ。
サンラマゼルが説得するような目をレイフォナーに向ける。
「魔力追跡中に危険が伴う可能性だってあるんですよ?あなたは次期国王となるお方です。危険なことはさせられません」
「アンジュちゃんが心配なのはわかるけど、お前はここで待機だ」
「そうそう。だから、アレで捜そうよ」
「だがーーー」
そう言いかけたが、三人からの絶対に行かせないという圧に楯突くのをやめた。口だけでなく、物理的に負けるのが目に見えているからだ。無理やり捜しに行こうものなら、剣術に優れたショールに一本負けし、体術に優れたサンラマゼルに一発で気絶させられ、最終的に上級魔法士のチェザライに魔法で拘束されるに決まっている。
レイフォナーはしぶしぶ、机の引き出しから銀細工の箱を取り出した。中には以前、アンジュにもらったハンカチが入っている。
「お前たちにも付き合ってもらうからな」
「そうなるよなー」
「でも僕はレイくんやショーくんとは魔力属性が違うから、いても役に立たないよ?」
「それ以前に、私には魔力がありません」
「ショールは私と共に追跡を。チェザライは魔法学校の魔法士たちとの連絡係。サンラマゼルには執務代行を任せる」
「了解」
「はーい」
「仕方ありませんね」
チェザライは魔法学校へ、サンラマゼルは執務室に向かった。
レイフォナーは、先程チェザライが言った“アレ”の準備を始める。
手のひらから水を出し、カラスほどの大きさの鳥を作った。
その鳥に、アンジュからもらったハンカチを見せる。
「これをくれた人物を捜すんだ。このハンカチにはもう彼女の魔力は残っていないが、できそうか?」
そう言われた鳥はハンカチをじーっと見つめ、首を左右に振った。
どうやら、魔力が残っていないハンカチでは難しいようだ。
レイフォナーは手のひらから水を出して球体を作った。その中にハンカチを沈めて、アンジュの魔力をイメージする。他にも彼女の魔法を見たときのこと、ハンカチをもらったときのこと、容姿や思い出も思い浮かべて、それらを球体の水に流し込んでいく。
ほどなくして、ハンカチは球体の水を全て吸収した。
それを鳥に見せる。
「どうだ?」
鳥はコクンと頷いて、口をパクパクと動かしてハンカチを飲み込んでいく。
ほんのりと青い水で出来た透き通った体の中に、ハンカチがフヨフヨと浮いている。
「頼んだぞ」
レイフォナーに頭を撫でてもらっている鳥は、目を細めて気持ちよさそうにしている。
ショールが窓を開けると、鳥は飛び立っていった。
「魔力、どのくらい持ちそう?」
「さあな。早く見つかればいいが・・・魔力が切れそうになったら、お前の魔力分けてもらうからな」
「うへえぇ」
ショールはドカッとソファに座り、レイフォナーは鳥が飛んでいった空を見つめている。
「アンジュ・・・どうか無事でいてくれ」