第2話 出会い
「俺たちと遊ぼうよぉ」
アンジュは何度も王都に来ているが、こんな連中に声をかけられたのは初めてだ。
怖くなり、後退りしながら答える。
「わ、私・・・忙しいので!」
そう言って走って逃げようとしたが、男に腕を掴まれてしまった。
「逃げんなよ。俺たちと楽しいことしようぜ?」
もう一人の男がアンジュの腰に手を回し、ふくよかな胸に目を向ける。
「美人とは言えないが、楽しめそうだなぁ。へへへ」
アンジュはここで逃げないと危険だと思い、手のひらから風を発生させ、自分の身体を守るように纏わせた。
すると、男たちはアンジュから手を離して尻もちをついた。
その隙に走り出す。魔法で飛んだほうが確実かも、と思って風を出そうとしたが、それよりも先に男に髪を掴まれてしまった。
「逃がさねえぞ!」
「痛っ!離して!」
恐怖で体が震え、うまく魔法を出すことができない。
助けを求めようとしたが、もう一人の男に手で口を塞がれてしまい、声を出すこともできなかった。
「宿に連れて行こうぜ」
男がそう言った瞬間。
二人の酔っぱらいは宙に浮いた。腕と胴体を水で拘束され、足をバタバタと動かしている。水は透き通っているが、ほんのりと水色を帯びている。
「う、浮いてる!?」
「くそっ、なんだこれは!?」
「全く・・・王都は治安がいいはずなんだがな。お前たちは旅人か?」
アンジュは声がしたほうに顔を向けると、金髪、オレンジ髪、銀髪の平民のような格好をした男性が三人、酔っ払いたちを見上げていた。
金髪の男性は右手人差し指を浮いている男二人に向けている。
(水魔法だわ!)
その指をくいっと下に動かすと、浮いていた二人は地面に叩きつけられるように落ち、拘束していた水が弾け飛んだ。
「いってー!!」
腰や背中を打ったのか、顔を歪めている。
「捕らえろ」
金髪の男性がそう言うと、オレンジ髪の男性が酔っぱらい二人を縄で拘束した。
さらに、銀髪の男性が手のひらから風を出し、十センチほどの人間のような生き物を作り出した。それの体は全体的に白っぽく、緑の風を纏っている。
「警備隊を呼んできて」
人間のような生き物にそう話しかけると、それは大通りへと飛んでいった。
絹のような光沢が美しい金髪の男性が、腰を抜かして地面に座り込んでいるアンジュに手を差し出す。
「大丈夫ですか?お怪我は?」
少し目にかかる前髪の奥から見つめてくる青空のような瞳の美青年に、アンジュは見惚れてしまった。
(なんて綺麗な人なの・・・)
「あの?」
「あっ、ありがとうございます!大丈夫です!」
差し出された手に、おずおずと手を伸ばした。
立ち上がったアンジュは腰を深く曲げてお礼を伝える。
「助けていただき、ありがとうございました」
「たまたま通りかかったので。ご無事でよかったです」
そう言って微笑む顔は、絹のような髪よりもキラキラと輝いて見える。
アンジュの胸はドキドキと大きな音を鳴らし始めた。
金髪の男性はじーっと見つめてくるが、これ以上この美しい男性と何を話せばいいのかわからない。いや、お礼の言葉は伝えたし、話すことはもう何もないはずだ。
「私、先を急ぎますのでっ!失礼します!」
お辞儀をして、逃げるようにその場から走り出した。
「あ、待っ・・・」
金髪の男性はアンジュの姿が見えなくなるまで、その後ろ姿を見つめていた。