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王子に恋をした村娘  作者: 悠木菓子
◇1章◇
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第18話 消えたアンジュ



 レイフォナーはアンジュの家の前で、水魔法で作った龍から降りた。

 久しぶりにアンジュに会える。早く彼女の笑顔が見たい、話がしたい、と急ぐ気持ちを落ち着かせながらドアをノックした。だが反応がない。魔力を探ってみると、家の中にはいないようだ。彼女の魔力を感じたのは森の方角からだった。


「レイフォナー殿下!」

 森に向かおうとしたとき、アンジュの隣人のおばあさんに声をかけられた。


 以前アンジュに、おばあさんは祖母のような存在だと聞いたことがある。おばあさんにとっても可愛い孫のような存在で、二人の和やかな光景を何度か見たことがある。


「こんにちは。足の調子はいかがですか?」

 そう声をかけてみるが、杖をついているおばあさんは青ざめた顔をしている。

 そんなに足が悪いのだろうか。

「アンジュが・・・帰ってこないのです」

「は?」


 四日前、村人が森に向かうアンジュを見たが、それを最後に行方がわからない。夜になっても部屋に明かりが灯ることはなく、午前中の日課である庭の手入れをする姿も見かけない。ドアを開閉する音や、その他の物音も一切しない。

 今、村人たちで森や川を捜索中だという。


「王都に行ってるのでは?」

「あの子は王都に行く際、私やイルに必ず告げてから行きます。でも今回は何も聞いていなくて・・・何日も戻ってこなくて・・・」

 おばあさんは涙を流しながら、震えた声で言った。


「アンジュが・・・行方不明?」


 不安、恐怖、混乱。それらの感情によって胸がドクンドクンと嫌な音を鳴らし始めた。一体、何が起こっているんだ。事故なのか、事件に巻き込まれたのか。嫌な想像ばかりが頭の中を駆け巡る。彼女の身に何かあったらと思うと、呼吸が荒くなり全身から汗が噴き出す。崩れ落ちそうになる膝をなんとか気合いで保って、平静を取り繕った。


 レイフォナーは水魔法で龍を作り、急いで森へ向かった。



 森の入口に着くと、いつもの静かな空気ではない。村人たちがアンジュを探している声が聞こえてくる。森に入りアンジュの魔力を探ろうとしたとき、イルの姿が目に入った。


「イル!」

 そう呼ばれたイルは、レイフォナーに向かって走り出した。 

「あんた、何か知ってるのか!?」

 いつもレイフォナーに対して敵意を向けているイルが、頼るような、助けを求めるような目をしている。

「いや、私も今聞いたばかりだ。とりあえず、アンジュの魔力を追ってみる」


 レイフォナーは不安で埋め尽くされている心を落ち着かせ、目を閉じてアンジュの魔力を探り始めた。

 


「森の東の方向にアンジュの魔力を感じるが、アンジュはいないようだ・・・森の中にはいない」

「いない、のか?」

 イルは今にも泣き出しそうな表情だ。


 アンジュの魔力は強く残っている。四日前にいなくなったと聞いたが、ついさっきまでいたのだろうか。

「行ってみよう」


 二人は東に向かって歩き出した。最短距離で向かうため、イルは道なき道を進んで行く。レイフォナーはその後ろを黙って付いていった。

 一言も話さず進んでいた二人だが、レイフォナーが沈黙を破る。

「かなり近い」

「もう少し行くと、開けた場所に出る」



 そして目的地に着いた。

 イルの言った通り、そこは少し開けた場所で、陽の光が差し込んでいた。向かって左のほうにアンジュの魔力が強く残っている。全力で魔法を使ったのだろうと予想できたが、それとは別の魔力も残っていた。


 レイフォナーはそこに向かって歩みを進めた。

 目の前の魔力の残滓に、背筋が寒くなるような畏怖の念を感じて鳥肌が立つ。片膝をつき、恐る恐る地面を触ってみる。


「なんだ?この不気味な魔力は・・・初めて感じる」

 イルは魔力がないため何も感じず、レイフォナーの言っていることがよくわからない。

「なあ、何が起こったんだよ?」


 レイフォナーは少し考え込んで、口を開いた。

「おそらく・・・いや、憶測で軽々しく口にしていいことではないな」

「うん?」

「上空からも捜してみよう」


 レイフォナーは水魔法で龍を作り、イルを乗せた。ワッグラ村を一周してみたが、アンジュの魔力は見つからなかった。隣村に大きな崖がある、アンジュは時々隣町に行っている、というイルの情報を聞きながら、周辺地域も捜してみたが、アンジュはどこにもいなかった。


「私は一度城に戻り、引き続きアンジュの魔力を追跡する。それとイル、頼みがある」


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