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王子に恋をした村娘  作者: 悠木菓子
◇1章◇
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第16話 闇の力



 その日の夜。

 城の自室のベッドに入り、仰向けになったユアーミラは目を閉じる。

 そのとき、窓をコンコンと叩く音が聞こえた。無視していると、もう一度コンコンと鳴った。気になって窓に近付き外を見ると、月明かりに照らされた一羽のカラスの姿があった。そのカラスは、体から黒い湯気のようなものを放っており、その不気味な見た目に思わず声を上げそうになってしまった。


「開けろ」とカラスが言った。

 

 ユアーミラは、普通のカラスでないことは当然わかっている。窓を開ければ、危険なことが起こるかもしれない。だが興味を引かれるというか、このカラスと話をしなければいけないような気持ちに駆られた。


 戸惑いながらも窓を開けると、カラスが部屋の中に入ってきた。

「なっ!?」

 カラスは部屋を一周して、テーブルの上に止まった。

 

 カラスは何をしに来たのか。ユアーミラは、なかなか話し出さないカラスの瞳を微動だにせず見つめると、カラスも無言のまま見つめ返す。

 すると、ユアーミラの紫の瞳が漆黒に変化した。


 ようやくカラスが口を開く。

「お前、あの娘に忠告しただけで満足か?娘が言うことを聞いたとしても、レイフォナーはどうか?また娘に会いに行くだろうよ」

 ユアーミラの目は虚ろで、生気を失ったような雰囲気だ。

「・・・レイ、フォナー、様は・・・わたくしの、もの・・・あの、女・・・邪魔・・・」

「ならば、何をすべきかわかるな?」

「・・・アン、ジュ、を、始末する・・・」


 翼を広げたカラスはユアーミラに向かって羽ばたいた。

 肩に止まり、耳元で話す。

「そうだ。アンジュに嫉妬し、恨み、負の感情で心を埋め尽くせ。そうすれば、お前に闇の力を貸してやろう。その力でアンジュを始末しろ」

「・・・しっ、と・・・闇・・・」

「くくく、楽しみにしているぞ」


 そう言ったカラスは、窓から飛び立って行った。








 ユアーミラがアンジュのもとを訪れてから、一か月が経った。

 その間、レイフォナーは一度も会いに来ないし、王都に行っても遭遇しない。ユアーミラに、レイフォナーとは会わないと宣言したこともあって、都合がよいと言えばそうなのだが。


 イルとはこれまで通り接している。告白の返事をまだしていないため、会うのは気まずいと思っていたが、イルの態度は至って普通だ。『急いで返事をしなくていい』と言ってくれた。


 レイフォナーのことは忘れて、これからはイルのことを前向きに考えようと決めたのに、どうしてか涙が溢れてくる。胸が締め付けられるように痛み、苦しくて辛くてそれ以上考えられなくなってしまう。この感情をポイッとゴミ箱に捨ててしまえたらどんなに楽だろう。


 そんなことを考えながらダラダラ庭仕事をしていると、声をかけられた。


「アンジュちゃーん!」

 そう呼んだのは、イルの弟・ハルだった。

 イルと手を繋いで歩いてくる。

「ハル!イル!おはよう」

「おはよー!」

「チビがお前と遊びたいってさ」


 二歳のハルは赤毛に赤い瞳で、小さい頃のイルにそっくりだ。いつも元気いっぱいで、アンジュによく懐いている。

 屈託のないハルの笑顔を見たおかげで、少し元気が出たような気がした。


「泣いてたのか?」

 イルは、目が赤いアンジュの顔を覗き込んで言った。

「えっと、土が目に入っちゃって」

「・・・ふーん」


(泣いてた理由、誤魔化せたかな・・・?)

 

 アンジュはそれ以上何も聞かれたくなくて、急いで手を洗いに行き、顔も洗った。

 最近考え込んでばかりで、気分が滅入っている。ハルと思い切り遊んで、気分転換をすることにした。



「お待たせ!ハル、何して遊ぶ?」

「あのね、かわ!いきたいの!」

「じゃあ、川で遊ぼう!おやつ持っていこうか」

「うん!」


 アンジュは家の中に入り、バスケットにクッキーや飲み物、コップ、タオルを手早く詰めた。


 ハルは、アンジュとイルに手を繋いでもらって川に向かった。

 その光景はまるで家族のように見えたのだろう。途中ですれ違った村人に、「お前ら、もう結婚しちゃえよ〜」とからかわれてしまったが、イルは「うるせー」とキレ気味に反論した。


 イルと結婚して、子供が生まれたらこんな感じなのだろうか。だが結婚生活を想像しようとすると、霧のようなものに遮られてしまい、その先のイルとの未来を思い浮かべることが出来なかった。



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