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王子に恋をした村娘  作者: 悠木菓子
◇1章◇

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第15話 牽制



 それから数日が経った。


 アンジュは何も手につかない。

 普段は庭の手入れをして、森に出かけ、刺繍をしたりお菓子を作ったりする。だがここ数日は、ベッドで仰向けになってぼんやりと天井を見上げてばかりだ。

 

 イルに告白されてから、今後について考える時間に捕らわれている。自分を好きだと言ってくれるイルと、将来一緒になることが一番良い選択だと思っている。

 イルのことは弟や友人として好きではあるが、恋愛感情ではない。自分が恋をしているのはレイフォナーだ。だが彼は自分のことなんてなんとも思っていないだろう。万が一思ってくれていたとしても、身分差がありすぎて彼と結ばれる未来など決してない。彼のことは早く忘れなければーーー。

 そう思っているのに、どうしてもレイフォナーことばかり考えてしまう。


「どうすればいいの・・・」


 そのとき、家のドアをノックする音が聞こえ、アンジュの体はビクッと跳ね上がった。


 誰だろうか。レイフォナーでもイルでも顔を合わせるのは気まずいが、無視するわけにもいかない。怠い体をゆっくりと起こしてベッドから降りた。  


 ドアを開けると、色とりどりの宝飾品を身に着けた身分の高そうな女性と、その後ろに侍従のような男性が立っていた。

 明らかに村の住人ではない。


「あなたがアンジュさん?」

「そうですが・・・どちら様でしょうか?」

「わたくし、ブランネイド帝国第一皇女のユアーミラと申しますの」

「はい!?」


 ブランネイド帝国が隣国であることは知っている。だが、隣国の皇女がなぜメアソーグの村に、そして自分を訪ねてきたのか全くわからない。そもそも、どうして自分のことを知っているのだろうか。

 彼女が身分を偽っている様子は感じない。


 アンジュは二人を家の中に案内した。


「こんな小屋でどうやって暮らしているのかしら」

「こんな女のどこがいいのかしら」

 と、ユアーミラはブツブツ言っている。


 侍従が椅子にハンカチを広げて置き、ユアーミラはその上に座った。

 アンジュは、飲まないだろうな、と思いながらも一応お茶を出す。


「あの、皇女様が私にどのようなご用件でしょうか?」

 ユアーミラは、お茶に蔑んだ視線を送ったあと、冷ややかな目でアンジュを見る。

 どうやら、お茶はお気に召さなかったようだ。

「あなた、レイフォナー様と随分仲がよろしいようね」

 レイフォナー、という名に体がビクッと動く。

「わたくし、レイフォナー様の婚約者候補ですの」

 そう言われたアンジュは、頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。


 今までなぜそのことを考えなかったのだろう。

 一国の王子に、婚約者や候補者がいるのは当然だ。それなのに、レイフォナーに恋心を抱いてしまった自分が恥ずかしい。体が熱くなり、汗が滲み出て、胸がドクンドクンと鳴り始めた。


「私の侍従が火魔法で作った蛇で、あなたのことをしばらく見させてもらいましたわ。まあ、レイフォナー様に消されてしまいましたけど」

 アンジュは呆然とする。

 

(いつから見られていたの・・・全く気付かなかった)


「今後一切、レイフォナー様に近づかないでくださいませ。あの方は田舎娘が珍しくて構っているだけで、あなたのことなんてなんとも思っていませんわ。ゆめゆめ勘違いされませんよう」


 ユアーミラは立ち上がり、侍従に目をやる。彼は手に持っていた袋をテーブルの上に置き、アンジュに中のものを見せた。

 中にはたくさんの金貨が入っている。


「な、なんですか、これ!?」

「差し上げますわ。あなた、王都まで出かけるのは、生活費を稼ぐためとレイフォナー様に会うためでしょう?これがあれば王都に行く必要はありませんわ」


 ユアーミラは見下すような視線をアンジュ向け、侍従と出て行った。


 これは手切れ金というのだろうか。

 金銭で相手を支配するやり方に憤りを感じ、体が小刻みに震えた。


(情けない・・・悔しい!)


 アンジュは泣きそうになるのを堪えて、袋を掴んで二人の後を追った。

 家のドアを開けると、二人は火魔法で作った鳥に乗って飛び立とうとしていた。


「待って!こんなもの貰わなくても、私はもうレイフォナー殿下には会わないわ!」

 そう言って、金貨が入った袋を侍従に突き付けた。



 家の中に戻り寝室のベッドに倒れ込むと、堪えていた涙が溢れ出た。 

 なんて惨めなのだろう。

 身分を弁えずレイフォナーに恋心を抱いてしまったことも、お金を渡されたことも、己の愚かさが招いたことだ。普通に生活していたら出会うことのない王子に出会い、優しくされて、構ってもらって、きっと舞い上がっていたのだ。自分の単純さに呆れてしまう。

 涙と共に、彼への恋心も流れていってほしい。

 

(恋って、こんなに苦しいのね・・・)


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