第13話 告白
レイフォナーを見送ったアンジュは家の中に戻った。
イルは先程までレイフォナーが座っていた椅子に座り、ふてくされた表情でクッキーを食べている。
「そんなに不味い?そのクッキー」
「クッキーは美味い。この顔はそうじゃなくて・・・あいつが、その・・・」
イルはレイフォナーに負けたような気がして、イライラしている。
アンジュは不思議に思っていた。
イルはなぜかレイフォナーを快く思っていない。王族が苦手なのか、それとも、これまで交わした少ない会話のどこかに嫌う要素があったのか。以前も睨むような目で見ていたし、今日も無礼な振る舞いだった。
「なんで殿下にあんな態度とるのよ?」
「だって!あいつ、絶対アンジュに気がある!」
(レイフォナー殿下を嫌うのは、姉にちょっかいを出す男が気に入らない弟、のような心境だから?)
アンジュはイルに出すお茶を準備しながら、ため息をついた。
「そんなわけないでしょ。あの方は王族なのよ?」
「俺にはわかる!あいつ、アンジュのこと好きなんだよ!」
(レイフォナー殿下が・・・私を好き?)
レイフォナーに嫌われていないとは思っているが、好きだと言われたこともない。
額にキスされたのはドキドキしたが、特別な意味などないと思っている。村に来てくれるのは、友人に会いに行くような感覚だろうし、村の雰囲気を気に入っているからだ。
「アンジュはあいつのこと、どう思ってるんだよ?」
イルは真面目に問うがイライラしているせいか、アンジュに向ける目は微かに睨んでいるように見える。
アンジュは最近、レイフォナーを好きだと自覚してしまった。
彼を忘れようと思っているのにデートに誘われた。困る、嬉しい、でも忘れなきゃ。一喜一憂するこの感情をどう整理すればよいのかわからない。
「・・・素敵な方だと思ってるよ。王子様に会うなんて初めてだし、憧れって感じかな」
そう言って、とりあえず自分の気持ちに蓋をした。
イルはテーブルに両手をバンッとついて、立ち上がった。
「嘘言うな!あいつと喋ってるときのアンジュは、俺が見たことない顔をしてる!女の顔になってる!」
女の顔とはどんな顔だろうか?と思っていると、イルに抱きしめられた。広い胸板、力強い腕。しょっちゅう顔を合わせているのに、こんなにも成長していたことに気付かなかった。
「お前とあいつじゃ、身分が違いすぎる。俺を好きになれよ。俺と結婚しよう?」
弟のように思っていたイルに、プロポーズされてしまった。
「イルは私のこと、その・・・好きなの?」
「ガキの頃からずっと好きだ」
二歳下のイルとは、姉弟のように過ごしてきた。子供の頃の彼はアンジュより小さく、いつも後ろをくっついてくるような少し気弱な子だった。
それが今では自分より背が高く、体つきも男らしくなり、自分を好きだと言う。ずっとこの村で生きていくと思っているが、これまで結婚について考えたことはない。
(でも、私は・・・!)
レイフォナーの顔が浮かび、イルを突き放す。
「私はイルのこと、弟のようにしか思ってない」
イルにこんなことを言う日が来ようとは思ってもいなかった。
イルはため息をつき、指で頭をポリポリと掻く。
「今はそれでもいい。でもこれからは俺のこと、弟じゃなく男として見て」
真剣な眼差しは、冗談ではないことが伝わってくる。
今思えば、最近イルの口から結婚や嫁という言葉が出ていた。
(からかってるんだと思ってたけど・・・)
複雑な心境だが、彼の気持ちに何年も気付かなかったことを反省した。