第123話 報告②
「二人の魔力を感知したのとほぼ同時にクランツを・・・いえ、クランツ殿下を発見し、保護しました」
「なんだと!?」
するとバラックの部下が説明を始めた。
「場所はエゴウェラの山林で、発見時気を失っておられました。現在もお目覚めではなく、魔法士たちが王都の手前までお運びし、待機しております」
この部下は、復興の手伝いのためエゴウェラに滞在していた。
その日の任務を終え、後輩である魔法士や騎士たちと酒場で食事をしていると、言葉には表せない不可解な感覚に襲われた。それは自分だけでなく他の魔法士たちも感じていたが、騎士たちは無反応だった。
つまりいまのは魔力で、明らかに異常だ。後輩たちを連れて酒場を飛び出した。徐々に薄れていくその不可解な魔力をたどり到着したのは、レイフォナーが姿を消したエゴウェラの山林だった。
この山林は万遍なく調べたはずだが、と思いながら手分けをして調査することにした。
しばらくして後輩に呼ばれた。そこへ行くと、地面で仰向けになって倒れている人が目に飛び込んできた。顔を覗き込むと、予想だにしなかった人物に息を呑んだ。
後輩はエゴウェラの住人か旅人だとでも思っている。この人物が闇の魔力を操り、かつ高貴なお方だということを知らないのだ。
『我が国の第二王子、クランツ殿下だ』
『へえ、でんか・・・で、殿下?ええっ!?』
どうやら怪我はしていないようだ。呼吸も安定しており、ただただ寝ているように見える。先程の不可解な魔力と無関係ではないはずだ。闇の魔力は感じないが、かつて闇魔法使いは忌み嫌われていたためその魔力を隠せる術があるという。どうしようかと思っていたところに、バラックの使いである鳥が来てくれた。
その不可解な魔力は、王都にいたバラックももちろん感じ取っていた。
それも、ツィアンとエゴウェラの二か所から。ツィアンからはアンジュとレイフォナーの魔力を感知したため、二人が現実空間に戻ってきたことを確信した。
そして不可解な魔力の正体も理解した。
クランツの闇空間は闇の魔力でつくられ、自分の転移や異空間は火水風の魔力でできている。そこに脱出のためアンジュの光の魔力やレイフォナーの水の魔力が加わった。それらが複雑に絡み合い、今まで感じたこともない不可解な魔力ができあがったのだ。
だが、エゴウェラからは誰か特定の魔力を感じなかった。ツィアンにはショールとチェザライを向かわせることにして、すぐにエゴウェラに鳥を飛ばした。
鳥を通してクランツの姿を視たが、確かに闇の魔力は感じない。魔力を隠しているどころか、魔力すらもっていないような無垢な寝顔だった。
そして、魔法士たちにクランツを王都手前まで運ぶよう指示した。
説明を聞いた国王は、あまりの急展開に言葉が出なかった。
「念のため、クランツ殿下を魔法学校の・・・地下室にお運びしてもよろしいでしょうか?」
魔法学校研究棟の地下は、魔力を有する犯罪者専用の牢獄になっている。魔力を封じる道具や設備が整っているのだ。といっても魔力を有する者自体少ないため、ほとんど使われていないのだが。
乗っ取られているとはいえ、王族であり息子であるクランツを収容することに躊躇いがある。だが闇の魔力を使ったこれまでの行いを考えれば致し方ない。特に他国の皇女を操ったこと、レイフォナーを転移させたことは重罪だ。
「・・・ああ、そうしてくれ」
バラックの部下は国王に一礼してその場を後にし、待機している後輩たちのもとへ向かった。
国王は、腕を組んで難しい顔をしている。
レイフォナーとアンジュが現実空間に戻ってきた。それと同時にクランツを発見、保護した。これまでバラックが魔力を追いながらも捕らえることができなかったというのに、タイミングがよすぎないか。一体、何が起こったのだ―――いや、そもそも今回のことはアンジュが大いに関わっている。アンジュの光魔法がクランツになんらかの影響を与えたに違いない。
「レイフォナーとアンジュから連絡は?」
バラックは首を左右に振った。
「通信を試みましたが、応答はありませんでした」
二人との連絡が先か、クランツが目を覚ますのが先か。喜びと不思議な現象に、今夜も寝不足になりそうだ。




