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王子に恋をした村娘  作者: 悠木菓子
◇3章◇

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第122話 報告①



 シュノワの漁港近くの宿では、チェザライがベッドの上であぐらをかいて窓の外を眺めていた。隣のベッドでは、たらふく食べて呑んだショールがイビキをかいて寝ている。


「ショーくんは今日もぐっすり」


 寝るにはまだ早い時間で、かといってほどよい時間になってもなかなか眠れない。レイフォナーがいなくなってから毎日寝不足だ。


 はあ、とため息をついたときだった。


「ん?なんだろう、この感じ・・・」


 周囲の空気感が変化したような、普段なら気にもならない微小な違和感。それは次第にはっきりと大きくなり、魔力だと感じた。それも、これまで感じたことのない魔力が勝手に伝わってくる。


 チェザライは慌ててベッドを降り、窓を開けた。三階であるにもかかわらず窓枠に足をかけて外に飛び出し、まるでそこに階段でもあるかのように、跳ねるようにして宙を駆け上がった。

 宿の屋根から周囲を見回すと、その魔力は二か所から感じとれた。


「この魔力はおそらく・・・」


 予想は間違っていないはずだ。思わず顔がニヤけ、あはは!と声を出して笑ってしまった。


「さて、ショーくんを起こさなきゃ!」




 メアソーグ王城では、国王が自室で王妃と過ごしていた。ここ数日はレイフォナーの仕事も引き受けており、睡眠時間を削るほど多忙だったが、今日は珍しく仕事が早く片付いたのだ。


 国王の隣に座っている王妃は、テーブルの上に置かれている二つのグラスにワインを注いだ。二人はそれを手にして見つめ合い、グラスをカツンと鳴らして口に運んだ。


「美味い!」

 数日ぶりの酒は、国王の身体に沁み渡った。

「最近はこのように、ゆっくりと過ごす時間もありませんでしたね」

「本当になぁ・・・だがレイフォナーの有能さを再確認できた。私がいなくてもこの国は安泰だろう。孫といっぱい遊びたいし、あの子が帰ってきたら隠居しちゃおうかな」


 王妃は、ふふ、っと笑った。だがすぐに笑みが消え、グラスをテーブルに置いた。


 浮かない顔をしているのは、この世界から消えた二人の身を案じているからだ。レイフォナーが転移させられてすでに七日が経ち、救出に向かったアンジュの食料が底を尽きていてもおかしくはない。

 日中は人の目もあるため気丈に振る舞い、仕事に打ち込んでいる。だが睡眠前の落ち着いた時間になると、不安で頭が埋めつくされてよく眠れていない。当然、国王はそのことを承知している。


 国王もグラスを置き、王妃を抱きしめた。子どもをあやすように、背中をトントンとたたく。


 どんな言葉をかけても彼女の不安は取り除けないだろう。自分がしてやれることは、こうして寄り添うことくらいだ。


 そのとき、部屋の外から慌ただしさが伝わってきた。廊下の衛兵に向かって、誰かが声を荒らげているような雰囲気だ。


 王妃から体を離し、国王はドアへと向かった。


 ドアを開けると、そこには衛兵二人とバラック、バラックの部下の姿があった。バラックは杖こそ手にしているがいつものローブ姿ではなく、部屋着のような格好で髪も整えられていない。同じくローブをまとっていない部下の衣服に至っては、野山を散策してきたかのように汚れている。二人とも、支度する間も惜しんでここに来たことが窺えた。


「バラック、どうした?」

「陛下。このような時間、このような格好で申し訳ございません」

「よい。何があった?」


 国王をまっすぐ見据えたバラックの目は、誰が見ても良い知らせだろうと予感させるような、自信や歓喜に満ちて潤んでいた。


「レイフォナー殿下とアンジュの魔力を、感知しました!」


 目を見開いた国王は、それが何を意味するのか理解した。ドクンと跳ね上がった心音を落ち着かせ、答え合わせをするように尋ねた。


「感知・・・それは、つまり・・・?」

「二人は闇空間からの脱出に成功し、現実のこの空間に戻ってきたのです!」


 それが聞こえていたのか、王妃もドアに駆け寄った。


 国王は右手を胸に当てた。


 アンジュは必ずレイフォナーを救出して戻ってくると信じていた。今日か、明日か、明後日か―――毎日毎日、その報告をどれだけ待ちわびたことか。ドクンドクン、と抑えきれないほど大きく奏でる心音は全身に伝わり、身体が震えてしまうくらい喜びに満ちている。


「そう、か・・・ついに戻ってきたか!二人はいまどこに!?」

「魔力を感知したのは、中央大陸北東部のツィアンのあたりです。シュノワに待機しているショールとチェザライを向かわせます」


 涙目の国王は、すでに大粒の涙をこぼしている隣の王妃を見つめ、力いっぱい抱きしめた。


「あの子たち、帰ってきたよ!」

「ええ・・・っ!」


 喜びを噛みしめている二人を邪魔するように、バラックは声をかけた。


「もう一つ、大事なご報告がございます」

「・・・?」

 国王は王妃から体を離した。


 バラックの目は先程のような喜びではなく、戸惑いが滲んでいた。



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