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王子に恋をした村娘  作者: 悠木菓子
◇1章◇
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第12話 不仲



 家に着き、アンジュはお茶の準備を始めた。椅子に座っていたはずのレイフォナーは、アンジュの横にやって来てその様子をじーっと眺めている。


「ベリーの実が入っている紅茶は初めてだ」

「甘いベリーなので食べれますよ。クッキーにはナッツを入れてます」


 二人は向かい合って着席した。

 レイフォナーはまず香りを愉しみ、上品にマグカップに口を付けたあと、スプーンでベリーを掬って食べた。


「美味しい!」


 舌が肥えているであろうレイフォナーには物足りない味だろうと思ったが、美味しいと言う表情からは嘘を感じない。

 クッキーも気に入ってくれ、「アンジュが作ったものは、私の心に安らぎを与える」と穏やかな表情で言った。


「先月、王都の祭りに行ったとき、殿下からいただいた服と髪飾りを身に着けて行きました。可愛いものに身を包まれると気分が上がって、楽しかったです」

「それはよかった。見たかったな、アンジュが着飾った姿」

 

 レイフォナーにとって、アンジュと過ごす時間はなによりの癒しだ。

 癒やされたい、話がしたい、彼女のことをもっと知りたい。そんなことばかり考えてしまって、こうして何度も会いに来てしまう。

 今では、彼女が婚約者だったらどんなに幸せだろう、と考えてしまうほどだ。だが、いつかは婚約者候補と婚姻を結ばなければいけないため、それまでの限られたこの時間を思い切り満喫したい。




 しばらく会話を楽しんでいると、二人の穏やかな時間を邪魔するかのように、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。


「アンジュー」

 外から聞き馴染んだ声が聞こえてきた。

 アンジュがドアを開ける。

「イル、どうしたの?」

「アンジュの家に不審者がいるって聞いたから」

 そう言って、レイフォナーを睨む。

 アンジュはイルの頭にゲンコツを食らわした。

「謝りなさい!殿下は私たち村の者にも寄り添ってくださる素晴らしいお方よ。橋が早く完成したのも、殿下のおかげなんだから」 

 

 叱られたイルは中に入り、レイフォナーの横に立った。

「・・・すいませんでした」

 王族に対して謝る言葉遣いではなく、反省している顔でもない。

 アンジュも頭を下げて謝罪した。


「気にしてないよ」

 レイフォナーは余裕の笑みを見せて立ち上がり、イルと目を合わせた。

「姉を守るのは弟の役目だもんね?」

「姉じゃなくて、未来の嫁です」

「ふうん、強気だな」

 イルは目を逸らし、ムスッとしている。

「邪魔が入ったし、今日は帰るよ」

 本当はもっとアンジュと過ごしたかったが、イルは出ていく様子がなく微妙な空気も流れている。

 

 


「今度は邪魔されないよう、王都でデートしようか」

 外まで見送りに来たアンジュに、笑顔で言った。


(デート!?レイフォナー殿下と!?というか、デートって何するの!?)


 アンジュはレイフォナーへの恋心を捨てようとしているのに、デートに誘われてしまった。そんなことをしたら余計好きになってしまうのでは、と不安になる。

 だが例え社交辞令だとしても、また会う約束をしてくれたことが嬉しくて堪らない。


「では、殿下からいただいたワンピースを着て行こうかな」

「うん、楽しみにしてる」

 レイフォナーはアンジュの前髪をかき分け、額にキスをした。

 真っ赤になったアンジュは、思わず抱きしめたくなるくらい可愛い。

 

 帰るのは名残惜しいと思いながらも、レイフォナーは水魔法で大きな龍を作った。それを見て目を輝かせているアンジュは、チェザライが言った通り、確かに初々しくて可愛い。


「今度乗せてあげるよ」


 そう言ってレイフォナーが龍に跨り飛び立とうとしたとき、ふと、アンジュの家の屋根に目がいった。そこには火魔法で作られた、ごく普通の大きさの真っ赤な蛇がとぐろを巻いていた。

 家に着いたときには、気付かなかった。


 蛇からはアンジュの魔力を感じないが、一応確認をする。

「アンジュは火魔法も使えるの?」

「私は簡単な風魔法しか使えませんよ」 


 レイフォナーは手のひらを蛇に向けて水を放つと、体を水に包まれた蛇は溶けるように消えた。

 アンジュが屋根を見上げると、白い煙のようなものが漂っていた。


「なんでもないよ。じゃあ、またね」


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