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王子に恋をした村娘  作者: 悠木菓子
◇3章◇
117/119

第117話 再会と脱出③



 満足したレイフォナーは腹から手を離して立ち上がった。アンジュの光魔法で身体も魔力も回復しているが、久しぶりに身体を動かせて嬉しいのか、それとも気合を入れるためなのか、ストレッチを始めた。


「お身体に痛みや違和感などはありませんか?」

「どこもかしこも快調だよ」


 レイフォナーは腕を伸ばし終え、肩を回している。表情が明るく、いまにも鼻歌を歌い出しそうなほど調子が良さそうだ。安心したアンジュは、広げていた食料などをリュックに詰めた。



「お待たせ」

 

 充分に体を動かしたレイフォナーは、アンジュに手を差し出した。その手を取り、ゆっくりと立ち上がるアンジュにレイフォナーはピッタリと寄り添い、腰に腕を回している。


「では、始めます」


 と言ったアンジュの手のひらが光り出した。レイフォナーと合流する前に、光の魔力から脱出方法を教えてもらったのだ。



(この闇空間は無限ではない。脱出するには空間の壁を見つけねばならない。四方に光魔法を放ちなさい。それは結界を破り、壁にぶち当たる。その衝撃音をよく聞くこと。一か所だけ異なる音がするはずだ。そこに向かいなさい)



 光を集約して球体をつくったアンジュは、それに風をまとわせ、前方へと勢いよく放った。それは一直線に飛んでいき、あっという間に見えなくなった。ほどなくして、「カーン」という軽い音がかすかに聞こえた。


 同様に右、左、後方へと放つと、四方のうち確かに一か所だけ「ゴォーン」という異なる音が響いた。


 アンジュとレイフォナーは目を合わせ、「左」と声を揃えた。






 シュノワの漁港に腰を下ろし、ショールは海面を見つめていた。レイフォナーたちが帰ってくることを、ただただ待つしかできないもどかしい表情をしている。


「アンジュちゃんが発って、もう五日か・・・」

「もう五日か、まだ五日か」

「あ?」

「僕は後者だなー」


 ショールの隣に座っているチェザライは、「でも、予想より早く脱出できるかも・・・」と呟き、余裕の笑みを浮かべている。そして、左手首の国家魔法士の証である銀の腕輪を口元に近づけて呼びかけた。


「バラックせんせ〜」

《・・・チェザライか》

「あのね。アンジュちゃん、レイくんと合流したと思う」

「は!?まじで!?」

 ショールは目を見開いてチェザライを見た。


 ショールもアンジュとレイフォナーの魔力はなんとなく感知している。だが、二人が合流したという具体的な動きまではわからない。


《そうか、合流したか!》

 表情は見えないものの、バラックの声は明らかに喜んでいた。

「弱まっていたレイくんの魔力も回復したよ」

《うむ、順調じゃな。引き続き、魔力を探ってくれ》

「はーい」


 バラックとの通信を切ったチェザライに、ショールは遠慮がちに視線を向けている。


 ずっと気になっているものの話題にできないことがあるのだ。知りたい、だが知らないほうがいいのでは、とためらってしまう。だがいいタイミングだと思い、切り出すことにした。


「なあ、お前のあの噂って本当なのか?」

「うわさ?」

「お前が・・・バラック先生の後継者って話」

「いやいや、僕に務まると思う?」

「お前の性格的に向いてない」

「そうそう。僕なんてバラック先生の足元にも及ばないし〜」


 温厚な性格すぎて無気力に見られることもあるが、レイフォナーとの信頼関係、護衛を任されるほどの実力は、誰もが認めている。そんなチェザライは火水風の魔力を有し、転移の技術も継承中で、稀代の魔法士であるバラック・バーンに匹敵ーーーいや、それ以上の能力を秘めている特級魔法士、という噂がまことしやかに流れているのだ。


 魔法には色があり、属性によって異なる。火魔法の攻撃やつくり出した生き物などは赤色を帯びている。水魔法は青や水色、風魔法は緑、光魔法は黄金、闇魔法は暗黒。世界で唯一、火水風の魔力を有するバラックはそれら三属性をかけ合わせることで白い魔法を使う。


 ショールはチェザライが風以外の魔法を使っているところを見たことがない。


 と思っていたのは間違いで、風だと思っていたそれは風だけではなかったのだ。これまでに幾度も、緑だけでなく白が混ざっている魔法を目にしてきた。“魔力は一人一属性”であり“バラックは別格”という教えのせいか、チェザライの白を帯びた魔法について深く考えたことはなかった。だが噂を耳にしたとき、バラック先生と同じだからか、と妙に納得した。


 チェザライは、左手首の銀の腕輪に視線を落とした。属性によってあしらわれている宝石が違い、階級によって宝石の数が違う。チェザライの腕輪には緑の宝石(エメラルド)が五つ。風の上級魔法士である証だ。


「僕はレイくんの護衛で、ただの風魔法士だよ」


 穏やかにそう言ったチェザライの表情に、なんだかはぐらかされた気がしたショールは追求をやめ、海へと視線を移した。


「あの二人、今頃イチャイチャしてんのかなー」


 その言葉がいつもの僻みではなく、そうであってほしいという願望に聞こえたチェザライも海を見つめた。


「うん。そうだといいね」



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