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王子に恋をした村娘  作者: 悠木菓子
◇3章◇
114/114

第114話 光の助言



 クランツが姿を消したあと、アンジュはレイフォナーと一刻も早く合流するため、再び風魔法でつくった鳥に乗って移動した。


 だがいつまで経ってもレイフォナーに会えない。確実にレイフォナーの魔力を感じているのに、その方向に向かっているのにたどり着けない。それだけ広い空間なのか、レイフォナーも移動しているのか。


 それでも諦めず、休憩を挟みつつ風の魔力を使い切るまで飛行し、睡眠をとって、また先に進んだ。




 それをひたすら繰り返し、アンジュが闇空間に侵入して数日が過ぎた。だが本人は、時折懐中時計を確認しているものの、いまが何日目なのかわからなくなってきている。


 アンジュは鳥から降り、地面に座って保存食を口にした。

 

「うーん・・・どうしよう」


 ある程度進んでレイフォナーに近づいたかと思うと、別地点に転移させられたように距離が広がる。鳥の飛行スピードを上げてみたり、逆に下げてみたり、歩いてみたり、自分自身に風を纏わせて飛行してみたりと、方法を変えてみたが結果は同じだった。クランツに邪魔されているとしか思えない。


 それになんとなくだが、レイフォナーは移動せずに一点に留まっているように思う。さらには、魔力が弱々しくなっている。レイフォナーが転移させられて何日も経っているのだから当然だ。クランツがわざわざ食料を差し入れているとは思えず、飲まず食わずの状況に身体が衰弱しているに違いない。


「早く合流しないと。あと試していない方法は・・・」

 

 どうすればクランツの妨害を突破できるのか。アンジュは焦る気持ちを落ち着かせながら考えた。



「光魔法しかない」


 だが妨害のからくりがわからないのに光魔法をどう使えばいいのかわからないアンジュは、助けを求めるように胸に手を当てた。


 一度だけ光の魔力と会話をしたことがある。丘でユアーミラと戦ったときだ。仲間たちが懸命に戦っているにもかかわらず、自分は恐怖や焦りで動けずにいた。そんなとき勇気を与えてくれたのが、光の魔力だ。


 アンジュはそれに話しかけてみた。


(光の魔力よ、聞こえますか?)

(・・・)

(レイフォナー殿下を助けたいのです。力を貸してください!)

(・・・もっと早く私に頼ればよいものを)

(!!)


 光の魔力が返事をした。


(そうすれば、闇空間に到着した日にレイフォナーと合流できたであろうに)


 その声はどこか呆れているような雰囲気だ。それに、以前会話したときとは別人格のような話し方だ。


(光の魔力は温存しておきたかったので・・・)

(まあ、よい。こんな薄気味悪い場所でそなたに死なれては困る。協力は惜しまんよ)

(ありがとうございます!)


 丘では聖母のような穏やかさだったが、いまの光の魔力からはバラックのような指導者の雰囲気と、王妃のような品がある。


 と感じたことは、光の魔力に話したわけでもないのに返事が返ってきた。


(そう感じるのは、私の格が上がったからだな)

(えっ?私の思っていることがわかるのですか!?)

(ふふ、筒抜けよ)


 アンジュは恥ずかしくなり、顔が真っ赤になってしまった。


 光の魔力曰く、現在のアンジュの魔力は光が七割で残りが風だという。バッジャキラから帰国後の魔力検査では、光は六割だった。だがアンジュはこの数か月、村に帰ってからも魔法の訓練に励んでいた。光は風よりも強力で、光の魔力を使いこなすほど魔力量が増え、格が上がるーーー魔法士で言うならば、階級が上がるということだ。


(そなたはいま、中級光魔法士といったところか)

(私が中級・・・光魔法士!)


 アンジュは嬉しさのあまり、泣きそうになってしまった。


 魔力を有しながら魔法学校に通わなかった自分が、“魔法使い”ではなく“魔法士”の、それも中級に達したのだ。

 だが光の魔力の話が本当なら、風の魔力はどうなるのだろう。光の魔力が膨れ上がれば、風の魔力はいずれ消滅してしまうのではないか。


 そんなアンジュの思考を読んだ光の魔力は、それを否定した。


(生まれ持った魔力が消えることはない。だが共生のためには、(わたし)と風の魔力階級を同じにすることが望ましい)

(片方だけが優れていてもダメ・・・?)

(うむ。バラックがよい見本だな)


 バラックは火水風の魔力を有しており、それらは上級であり魔力量は均一だという。そんな人物は他におらず、世界で唯一の特級魔法士だ。


(さて。話が逸れてしまったが、本題に入ろう)

(はい!どうすればレイフォナー殿下に合流できるでしょうか?)


 光の魔力は、正解を知っているようだ。


(まずは移動について。光の魔力で鳥ではなく・・・そうだな、木の板を思い浮かべてつくってみよ。そなた一人乗れるくらいの大きさでよい)

(木の板?)

(鳥は複雑な形状だ。木の板のほうがイメージが簡単で、はるかに魔力の消費が少ない)

(え、でも、木の板で移動できるのですか?)

(できるから言っておる。二百年前のアンジュがそうだったからな)

(二百年前の私を知っているのですか!?)

(いまはそんなことよりも、レイフォナーに合流してこの空間から脱出することだけを考えよ)

(は、はい!)

(次に、クランツの妨害のからくりについてーーー)




 光の魔力と会話を終えたアンジュは立ち上がり、レイフォナーの魔力を感じる方向を見据え、右の手のひらを上にして体の前に差し出した。すると、手のひらが光り出した。その光は球体へと変化し、アンジュは木の板をイメージした。

 

 球体はグニャグニャと形を変えると、アンジュ一人が乗るには充分な黄金に輝く正方形の板が出来上がった。


「わぁ!できた!」


 アンジュはリュックを担ぎ、板の上に乗った。感触は絨毯のようなフカフカとしたやわらかさだが、安定感がある。


 そしてアンジュは鞘から光剣を引き抜いた。すると絨毯は浮き上がり、飛行を始めた。



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