第11話 二人きりの時間
ある日の午後、アンジュは森の中で切り株に腰を下ろして一休みしている。食べられる野草や木の実を採りにきたのだ。
生い茂る木の葉を眺めながら、レイフォナーのことを考えている。
まだ数回しか会っていないが、彼は村の問題にも尽力してくれ、田舎者を見下すこともない。王族らしからぬ気さくさ、目を奪われるほどの美貌に惚れない女性なんていないはずだ。
それに、自分を気にかけてくれている感じがして嬉しい。レイフォナーと過ごす時間は、他者からは得られない幸福感に満ちている。
(これが恋なのかな・・・?また来ると言ってたけど、あれから二か月経ったわ。本当に来るのかな?この前王都の祭に行ったときには会えなかった・・・)
レイフォナーのことを考えるだけで、胸がじわっと温かくなる。
だが、なかなか会えないことが寂しい。寂しいと思うと、温かいはずの胸がズキンと嫌な音を鳴らし、現実を思い知らされる。
雲の上の存在であるレイフォナーに恋をしても、報われるわけがなく無意味な感情にすぎない。どうすればこの恋心を捨てられるのだろうか。
アンジュはため息をついて、首を左右に振る。
「あの方のことは考えないようにしよう!会いたいなんて思っちゃダメ!」
そう自分に言い聞かせて、両頬をペチペチと叩いた。
すると、横から声をかけられた。
「誰に会いたいの?」
顔を上げると、レイフォナーが笑顔で立っていた。
「きゃーーー!!!」
足音や気配に全く気付かず、驚きのあまり叫んでしまった。レイフォナーに会うといつも胸がドキドキするが、今はドクンドクンと驚きの音を鳴らしている。
「ひどいなぁ。化け物を見るような顔をしないでよ」
レイフォナーは初めて会ったときのような平民の格好をしている。今日は完全プライベートで、ショールやチェザライにも内緒でお忍びでやって来たのだ。
城に帰ったら一人で行動したことを怒られるだろうが、アンジュとの時間を誰にも邪魔されたくない。
独り言を聞かれてしまったアンジュは、恥ずかしくてたまらない。
「叫んでしまって、すみません。あと、さっきの独り言は忘れてください」
「ふふ、どうしようかな」
からかうような笑みを向けてくる。
いたたまれないアンジュは話題を変えようと、疑問に思ったことを尋ねる。
「ここにいるって、よくわかりましたね?」
現在、それなりの広さがある森の中にいる。彼の様子から、探し回ってやっと見つけた、という感じは見受けられない。
レイフォナーはアンジュの横に腰を下ろすと、両手を頭の後ろに当てて、ゴロンと寝そべった。
そんなことをしたら服が汚れてしまうのに、彼は気にもとめていないようだ。
水魔法で作った龍に乗ってきたレイフォナーは、村に着いてからはアンジュの魔力を追って、森のこの場所を特定したという。
「魔力を追う!?そんなことが出来るのですか!?」
「うん。君の魔力と魔法は一度見て覚えてるからね」
レイフォナーが初めてこの村に来たとき、アンジュは風魔法で彼のマントを乾かしたことがあった。
「ここは・・・いい所だな」
そう話すレイフォナーの顔はとても穏やかだ。普段の生活では寝そべることのない硬い土、木々の隙間から差す陽の光、鳥の囀り、木や草花の香りに癒やされているように見える。
すると、味覚も堪能したくなったのか「アンジュが淹れたお茶が飲みたい」と、ねだってきた。今日は毒見役がいないのに、いいのだろうか。そう思っていると、「アンジュのこと信用してるから」と言ってくれた。